その後の敦 4

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その後の敦 4

 その夜、知己の携帯電話が鳴った。  携帯の画面上には「吹山章」の表示が浮かび、一瞬、知己を怯ませた。 (しまった! 2月のあの時から着拒否設定に戻すのを忘れていた……!)  1月に初詣に誘われて、すぐに着拒否したものの、2月に俊也の件があって着信OKにした。そのまま、うっかりと拒否設定にするのを忘れていたのだ。  だが、知己が着拒否設定にするのを忘れるほど、番号を知っても章は面白半分にかけてこない。  つまり、これは何かあったのだなと思い 「……なんだ、章?」  と恐る恐る電話に出た。 『先生、大変! 敦ちゃんが死んじゃう!』 「え?!」 (……敦が死ぬ?)  これほど不似合いな言葉はない。  病弱だったのは、数年前。今はその片鱗を一切見せず、元気に悪態ついている。入学式で倒れた姿でさえ、今では幻だったのではないかと思えるほど、今日も悪態ついていた気がする。 (いや、違うな。悪態ついている振りして、あいつ、本当は具合悪かったのか?)  倒れたのは一日前。  昨日はゆっくり休んでフル充電し、今日は登校してきたように思えたが、理科室ではずっとご機嫌ナナメだった。  それで、章が「大事をとって休んだ」と言っていたことが、実は本当に具合悪くて休んだのではないかと急に心配になった。 「そんなに敦の体調は悪かったのか? 一体、何の病気なんだ?」 『違う、違う。体は元気』 「はあ?」  意味が分からない。 『なんかね、悩みを抱えているみたい』 「全くそうは見えなかったが」  章と俊也が仲良くふざけていて、仲間に入れずに「俺は帰る!」と臍まげて元気いっぱい走って帰ったようにしか見えなかった。章が追いかけたから、大丈夫だろうと思っていたのに。 『どうも、自殺を考えているみたい』 「え……、そんな、まさか。嘘だろ?」 『嘘じゃない。自分のこと【死んじゃえばいい】なんて悲しいことを言ってたもん』 「えええ?! それで理科室を飛び出したのか!」 『今、思えば、なんか思いつめたような顔してたよね?』 「……(敦が不機嫌なのは、デフォルト仕様じゃないか?)」  とは、さすがに言えない。
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