242人が本棚に入れています
本棚に追加
『あの後、割と早くに追いついて話すことできたんだけど……敦ちゃんが自分のこと大嫌いで死んじゃえばいいだなんて言い出して。僕、もう何も言えなくなっちゃって。その後は二人とも話もしないで家に帰ったんだ。
でも、今、この時に敦ちゃんが死んじゃったらって思うと、もう怖くて怖くて』
「その時に何故、思いとどまらせなかった?」
思わず知己が尋ねた。
『僕だって思いとどまってくれないかな? と思ってたよ。だけど、敦ちゃんは僕のことが嫌いなんだよ。そしたら、何も言えないじゃない?』
「はあ?」
『敦ちゃんの話の流れから言ったら、僕に好かれているのは死ぬほどつらいことなんだ』
「えええええ?!」
『そんな僕が、どうこう言えると思う?』
「……すまんが、まったく分からなくなった」
章の突拍子ない話の連続に、知己は完璧に話が見えなくなった。
「……ちょっと整理しよう」
『うん』
電話口からでも分かる、章の凹んだ声だった。
「敦は自分のことが嫌いで自殺を図ろうとしてんだろ?」
『うん』
「それなのに、お前に好かれているのが辛くって死のうとしているのか?」
『あれ? そういえばなんか変だね』
章との話に夢中になっている知己の横に、そぉっと将之が近付いてきた。
「あ」
知己が気付いた時には、遅く
「先輩、お風呂どーぞー」
わざと携帯に向かって、章に聞こえるように話しかけた。
知己は慌てて携帯を押さえたが、無駄だった。
『……ねえ、こんな夜に将之さんが傍に居るの?』
明らかにテンションダダ下がりの章が尋ねた。
「あ。うん。……まあ」
こうなっては、もはや隠しようがない。章に「幻聴だ」というには、無理があり過ぎる。
『はああああ?! ちょっと、ソレどういうこと?』
案の定、章が騒ぎ出した。
『僕が……ついでに敦ちゃんがこーんなに悩んでいるのに、夜に二人で会ってお風呂なんか勧めちゃって、この後二人は何する気? 大人の夜をエンジョイ? これだから大人はー!』
(敦……「ついで」扱いか……)
そこはきっと章流の照れ隠しだろう。
最初のコメントを投稿しよう!