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「章君、久しぶりだね」
『卒業式以来ですね』
「なんだか敦君のことが心配みたいだけど」
『そうなんです。聞いてました?』
さりげなく嫌味を入れるのは章のやり方。
夜に知己と会って風呂に入る関係は受け入れがたいし、聞き耳立てられていたのにも不満。
それが現れている。
「いや。僕は途中からしか聞いてない。詳しく説明してくれる?」
章の言葉を軽く流して、将之は話を続けた。
『もちろんです。聞いてください!』
将之に色々と思う所はあったが、今は敦のことが最優先だ。
敦がやたらと理科室に来たがっていたくせに怒って飛び出してしまったこと、その後に章の好きな人が大嫌いで死ねばいい発言をしたことを章はかい摘んで話した。
(なんで章まで懐いてんだ?)
敦と俊也はまだわかる。将之と一緒に、知己達を尾行した仲だ。
だが、章はたかだか一緒に昼食をとり卒業式で少しばかり話をした程度ではないか。
(こいつにも章にも、ムカつくなぁ)
しかし、話の内容は気になる。
今度は知己が将之の持つ携帯に顔を寄せて、あからさまに聞き耳を立てていた。
とは言え、将之は隠す気もなさそうだったが。
「敦君が、君に好かれていることが原因で辛くて死にそうだと思ったのは?」
『僕の恋を応援できないって敦ちゃんが言ったからです』
「なんでもズケズケと言う敦君にしては、遠回しな言い方だね」
『……敦ちゃんは、そんなにズケズケと言いませんよ』
「そう?」
2月に敦と行動を共にした将之は、同意しかねていた。会って間もない将之の前で、敦は牽制も皮肉や嫌味も何でも思ったことをズバズバと口にしていたからだ。
「敦君は脳と口が直結しているタイプだよ。悪意を混ぜて喋るから多少分かりにくいけどね」
『えーっと……それ、脳と直結しているって言います?』
「悪意を差っ引いたら、本音丸出し。分かりやすいよ」
(それが分かるのは将之だけだろ?)
普段から悪意交じりの会話ばっかりしている将之を見つめる。
(ん? なぜか先輩が意味深な視線を送っている……)
と将之も気付いた。
「プライドはやたらと高そうだけど、分からないことをそのままにせずにストレートに訊いてくる所なんか、かなり素直ないい子だと思ったよ」
(敦が、素直ないい子?)
知己の「素直」の定義が揺らぐ。
(ツンデレというかツンの権化だと思っていたが。そうか、あいつ、素直ないい子だったのか……)
そう思い改めている横で
『どこが?』
と章は突っ込んでいた。
『複雑なお年頃の権化の間違いでしょ?』
どうやら、章は知己と同意見のようだ。
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