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『それで、将之さんは素直な敦ちゃんの言動をどう思われます?』
「……君は素直じゃないね。その妙な言い回しは損をするよ」
『余計なお世話です』
「なんで、そんなに突っかかるの?」
『先生と一緒に居るからです』
携帯挟んで将之にくっつくように聞いていた知己は、章の発言に慌てて離れた。
(章……、見えてないくせに間接的に攻撃してきやがる……)
章はなにげなく言ったのであろうが、心臓に悪い。
『他人の不幸は蜜の味だけど、他人の幸福はマンゴーの味です』
「何、それ?」
『僕、マンゴーやアボカドを食べると喉が痒くなるんです』
「……そう、それは辛いね」
知己も
(美味いのに……食べられないのか。可哀そうに……)
と少しだけ思った。
「とりあえず、僕の印象だけど。しかも二回しか会ったことないけど。敦君は自分自身を嫌うなんてないと思う。多分、彼は自分のこと大好きだよ」
『僕もそう思います。あの子、自意識過剰の自分大好き人間だと思ってました』
(章……なにげに敦のことを酷く言ってないか?)
「そんな敦君の死亡動機が自分のことが嫌いっていうのも変だし」
そこで将之がニヤリと知己に笑ってみせた。
(あ、こいつ。今、【いいこと言った!】みたいな顔した。
なるほど「志望動機」と「死亡動機」をかけたんだな)
『……』
電話の向こうでは章が複雑な顔になっているのだろう。妙な間が空いた。
「えーっと……君に好かれたら死んじゃうっていうのも、話がズレちゃうよね。だからそれは章君の思い違いじゃないの?」
『そっか……。そうかも。その方がすっきりします』
章の穏やか声。
それで、章が納得したのだろうというのが伝わった。
「そもそも、どうして章君の好きな人が自分だと敦君は知っているの?」
『それは……先生が喋ったから』
「先輩が? ……ちょっと待っててね」
将之は知己の方をチロリと見た。
「先輩、章君の好きな人のことを敦君に喋りました?」
「そ、そんなこと言うわけない!」
知己は、犬が水を弾き飛ばす動きと同じ勢いで首を横に振った。
「そんなことをしたら、仕返しに将之のことを吹聴される!」
『もちろん! 明日、絶対に言いふらかそうと思ってた』
「俺はやってない!」
『じゃあ、誰がばらしたんだろ?』
「絶対に俺じゃないからな!」
刑事ドラマの1シーンのような二人の会話に将之が
「先輩たちは、一体、学校で何の話をしているんです?」
と呆れ気味に呟いた。
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