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「昨日章が一人で理科室に来て、【暇だから好きな人の当てっこしよう】って言い出したんだ」
知己が弁明するかのように言うと
「……」
将之が無言で、しばだたいていた。
「な、何だよ……」
もの言いたげな将之に知己が問うと
「それで僕の名前を出してくれたのは嬉しいけど」
(いや、出したというか出されたというか選択の余地はなかったというか)
何せ章は三択問題に見せかけて、実質「将之」一択だったからだ。
「……章君とそんなお遊びするなんて、どんだけ暇だったんですか?」
少し呆れて将之が言った。
「言っとくけど、俺は暇じゃなかったからな」
『暇そうだった』
「暇じゃないってば」
『教科書読んでるふりしてただけ。暇そうだった』
「教科書読んでて忙しかったんだよ、俺は!」
『それを【暇】と言う』
「暇じゃない!」
こうなると、もはや水掛け論である。
「……とりあえず、言わせてくださいね。
章君と二人きりになった途端、そんな話するなんて、いい年した大人が恥ずかしいですよ」
「うっ……!」
痛い所を突かれて、知己が黙った。
「どうしてその時、敦君と俊也君は居なかったんです?」
先ほどの将之の発言に、いまだダメージ拭えない知己の代わりに章が
『敦ちゃんは元気なくせに親の言いなりで大事をとって学校を休んだんだ。俊ちゃんは柄にもなく学級委員になったので会議に呼び出され、理科室には遅れて来たんだ』
と答えた。
(本当に章の妙な言い回しは、無駄に敵ばかり作るなぁ)
と知己は思った。
『先生が言ってないのなら、敦ちゃんは僕が好きだとは知らないのかな?』
「その話、他の誰にもしてないの?」
『うん。先生にだけ』
「じゃ、先輩が喋ってないのなら、そうなるね」
『……』
「どうしたの? 章君」
『……安心した。とりま、敦ちゃんに僕の気持ちバレてないで』
章が安堵の息を吐き出す。
「章君は告白しないの?」
『うーん……今の所、する気ない』
「告白したら、うまく行きそうな気がするけど?」
『僕は、ずーっと幼馴染でいい。あくまでも今の所だけど』
「そうなの?」
『僕は、敦ちゃんの結婚式で友人代表のスピーチする立場がいいんだ』
(章にスピーチを頼む……? それはそれで爆弾投下しそうで怖いな)
と知己は傍から聞いていて思った。
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