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「その心理、僕には理解できないけど。家永さんに似ているのかな?」
『誰? それ?』
「むぐっ……!」
章の方には、将之の苦し気な息とドスンバタンという物音だけが聞こえた。おそらく、
(これ以上、面倒にするな!)
と慌てて知己が口を塞いだと思われた。
『じゃあ、僕の好きな人のことを分かってないのなら、どうして敦ちゃんは【お前の恋を応援できない】なんて言ったんだろ?』
「簡単だよ」
『簡単?!』
章が驚きの声を上げた。
「君に好きな人がいると敦君は分かっているんだ」
『先生……やっぱり喋ったの?』
「俺じゃない!」
またもやさっきのリプレイが始まりそうだった。
「章君、待って。先輩以外に、昨日理科室に来た人物……俊也君が怪しいと僕は思う」
『俊ちゃん!?』
章の声が跳ね上がった。
『……盲点だった。俊ちゃんが敦ちゃんに何か吹き込んだんだね』
「推測の域を出ないけど。俊也君には、それはもう見事な前科があるからね」
2月。
章と知己の後をつけさせて、俊也に報告させた苦い思い出が将之にはある。
『俊ちゃんなら、ありうる……。あることないこと、火のない所に煙を立てそう』
「明日、俊也君に聞いてみるのをお勧めする」
『任せて! 厳しく追及するのは得意だよ!』
「それは拷問というのでは……」
『違う。僕流に、厳しく、追及!』
言い張る章に、知己は明日の俊也の運命に同情した。
(ほら、やっぱり面倒になった……。どうせ、放課後の理科室でヤるんだろ?)
明日の午後、俊也は章に吊るし上げられることが決定し、それを見せられるであろう知己は目の前が暗くなった。
「明日、俊也君が敦君に何を吹き込んだかが判明するとして……。
次に分かったことだけど、敦君は理科室を怒って飛び出したんだろ? で、章君の【恋】と断言した。章君の他に理科室に居たのは、先輩と俊也君」
『うん、うん』
「俊也君は余計なこと吹き込んだ本人だから除けといて」
(なんか、俊也が可哀そうになってきたな……)
「敦君が怒ったのは、章君の好きな人が先輩だと思っているからだと思う」
(どうして、そうなる?!)
章も同じ思いだったらしく
『どうして、それで敦ちゃんが怒るの?』
と尋ねた。
「だから【簡単】だと言ったんだ。敦君も先輩のことが好きだから、だよ」
『そっか! それで僕の恋を応援できないって言ったんだ。好きな人が被っているから!』
「そういうこと」
「何が、【そういうこと】だー!」
たまりかねて知己が口を挟んだ。
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