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『あ……!』
章の声に、知己が反応し将之の代わりに電話を取る。
「どうした?」
『どうしよう。僕、とんでもないことを思い出しちゃった』
「なんだ?」
『うーん……、なんだかね。言っていいものかどうか……。さすがの僕も空気を読んで、ね……』
「だから、何なんだ?」
なかなか言おうとしない章に、知己が苛立つ。
『じゃあ、言うけどさ。先生……泣かないでよ。絶対に泣かないでよ』
「お前、俺をなんだと思ってんだ」
『……敦ちゃん、……僕の好きな人が大嫌いで死んじゃえばいいって言ってた。それってつまり……」
「あ」
今度は将之が傍から聞いていて、気付いた。
「そうか。……あいつ、俺に死ねばいいって言ってたのか……」
思わぬ敦の、知己の死を願う言葉に気付いて固まった。
『……敦ちゃん、めちゃくちゃ手厳しい愛だね。さすがは複雑なお年頃の権化』
「……きっと敦君は、章君と先輩を奪い合いたくなくて、そんな発言を……」
二人が自己流で懸命に知己を励ます中
「なんか、俺……、もしかしてめちゃくちゃ可哀そうなのか?」
と知己が呟いた。
とりあえず、敦が今夜のうちにでも自殺してしまう危険はなさそうだ。
「……以上、中位将之による名推理でしたー!」
『凄い! 将之さん、天才ー! ありがとー!』
スッキリとした章の明るい声とパチパチという拍手の音が聞こえた後、電話は通話終了になった。
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