その後の俊也

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その後の俊也

「やあ。こんにちは、俊也君」  放課後、理科室のドアを開けた俊也を改まって迎えたのは章だった。 「……なんだ、その変な口調は?」  先ほど、HRが終わって教室から別々に出ただけ。数分の時間を経て、再び理科室で再会しただけなのだ。  とりあえず、放課後は理科室に集まる……と、ほぼ部活に近い状態の俊也、敦、章であった。  前任校での門脇の時も似た感じだったが、門脇の時の主な部活の活動内容は知己の手伝い「勤労奉仕」だった。  章達の場合、活動の90%は「喋る」である。知己の手伝い要素は、かなり薄らいでいる状況だ。 (まあ、こいつらを当てにはしてないけどな)  と知己は教卓で教科書片手に思った。 (思えば、門脇は有能な男だったな)  今では家永が門脇の有能さに気付き、有効利用している。   「あ、将之さんの言い方が移っちゃった」 「何? ライオさん来てるの?」  なぜか嬉しそうにする探し始めた俊也に (なぜか、こいつも懐いてんだよな……)  と知己は思った。  章は敦を連れて、俊也よりも早々に理科室にやってきた。  多分、これ以上俊也と二人きりにして余計な情報(こと)を吹き込まれないようにとの懸念からだろう。  三人は常に一緒に行動するのかと思いきや、意外にもそうでもない。女子と違って「のけものにされた」と思うことなく、2人で行動されても残った一人は特に何も思わないようだ。  例えば、俊也の学級委員の打ち合わせ、俊也の補習、俊也の服装違反が見つかっての生徒指導…… (あれ? なんだ、ほぼ俊也が一人になっている場合か)  と知己は気付き、 (通常運転なら、そりゃ、特に何も思わないよな)  と思った。  キョロキョロと辺りを見渡しても、ライオこと将之は居ない。 「居ねーじゃねーか」  あからさまにがっかりとする俊也を見て、章は 「将之さんが最大のライバルとも知らずに……。頭悪すぎて、嘆かわしい」  と呟いて、隣にいる敦を「何、イミフなこと言ってんだ?」と困惑させた。 「さーて」  章が笑顔で 「今日は俊也君に色々とゲロってもらうよー!」  高らかに本日の部活動内容を紹介した。 「ん? 何のことだ?」  今度は、俊也が困惑した。 (俺は教師として、どういう立場で居ればいいのだろう)  ついでに知己も困惑させた。 (とりあえず、俊也が敦に何を吹き込んだのか知りたいから様子をみておこう)
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