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章の「僕と先生は親密」発言に敦の過剰な反応。
(あ、しまった。つい、余計な一言を……。そういえば、敦ちゃんの好きな人は先生だったっけ)
章は昨日の将之の話を思い出していた。
「話の腰に横槍を思いっきり刺した上にバッキバキに折ってごめんね、俊ちゃん。『俺はてっきり』の続きをどうぞ」
「うぉ、なんか想像したら俺の腰がめっちゃ痛え」
俊也は自分の腰に、嬉々として槍を刺し込んでいる章を想像してしまった。
「見かけによらずデリケートだね。でも、気にしないで続けて」
「……まあ、いっか」
俊也が「まあ、いいか」で済ませた。
(あ。いいんだ)
真犯人になった所為か、今日は走り回る元気がないのか。俊也が穏便に済ませていた。
「あの時、教卓挟んで二人が顔を近づけていただろ?」
「いたね(秘密の話をしてたからね)」
「だから俺はてっきり一線越えたものと思った」
「……」
これには敦も神妙な顔で章を見つめて返事を待っている。
きっと「本当に一線越えたのか?」と問いたいのだろう。
「ところで『一線』って?」
章がダイレクトに聞く。
俊也が頬を赤らめて、一度口を閉ざした。「一線」をなんと表現したらいいのか、迷ったのだろう。
「………………………………ちゅー」
出てきたのは、6歳児の表現だった。
(ソレ、宗孝がよく言うヤツじゃねーか。俊也、表現力が6歳児レベルか……)
いまだ入口付近から入れずに佇む俊也を知己は見つめた。
「あはははは! その顔で『ちゅー』だなんて!」
「うるさいな! 顔は関係ないだろ?!」
知己の哀し気な視線と章の嘲笑に、俊也は居たたまれなくなった。
「あははははは。でも、ちゅーなんてしてないよー」
と笑いながら言う章に
「本当か?」
突然、話に割って入ったのは敦だった。
「わ、びっくりした」
章から笑顔が消えて、
「うん。本当だよ。いくら僕と先生が仲良しでも、ちゅーはしないね」
真顔で言う。
(だから、誤解受けそうな言い方をするなよ)
教卓の向こうで、知己が眉間に皺を寄せた。
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