その後の俊也

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「騙されたー!」  敦が悔しそうに吐き出す。 「騙してない! 俺は見たまんまを言っただけだ」  慌てて俊也が取り繕う。 「脚色しまくりの『見たまんま』だったね」  章が付け足す。 (一般的に、それは「見たまんま」とは言わないだろうなー)  と知己は思った。  またもや敦は 「俊也ー!」  と般若の形相になった。 「ご、ごめん。でも、先生と章が顔を近づけてたのは本当だったろう?」  俊也が必死に弁解する。 「確かにそれはそうだな」  教卓を挟んで近かったのは事実だ。 「章、一体何をしていた?」  敦は再び章に尋ねた。 「……こ」 「「こ?」」  敦と俊也が、章の言葉を復唱して訊き返した。 (思い切って、恋話(コイバナ)と正直に言うのか?)  と思いきや、 「こ……今後の教育界と生徒指導の在り方について」  と何やら硬い話題に章はもっていった。 「「はあ?」」  やはり敦と俊也が同じように首を傾げている。 「唐突だな」  と敦が訊くと 「二人きりだったから、そういう話もいいかなと。以前、母が言ってたのを先生に訊いてみたんだ」  真顔で章が答える。 (こいつ、根っからの嘘つきだな……)  と知己が思っていると 「そうなのか?」  と今度は知己に敦が訊いてきた。 「ああ、まあ。そうだな」  適当に知己が相槌を打つと 「で、お前はなんと答えたんだ?」  敦が章を押しのけて、教卓の向こうにいる知己に詰め寄った。   章が本当のことを話しているかどうかなんて分からない。  口から先に生まれてきた幼馴染のことだ。  適当なこと言っている可能性もあるが、正しいかどうかを調べる術を敦はもたない。どうせ章に訊いても言いくるめられるだけだ。  だから、矛先を知己に変えた。  知己の返答で章が嘘をついているかどうかを見極めるつもりだ。 「えーっと、……この学校の一部の生徒には、会話術のテクニックに頼った遠回しな話よりも、ダイレクトな質問が適切だと思った」  知己は、さっきの見たままを答えた。  その答えに敦は「本当に、何もなかったんだ」と安心し、背後で章が 「(もしも本当のこと喋ったら、僕が先生を殺すからね)」  と睨みを利かせていた。  知己は、 (もしかして……結果として俺の死を願うものが増えただけなのでは……?)  と思った。           ―その後の俊也・了―
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