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抜き打ち検査
そんな感じで、なんとか敦達の「章と先生は一線越えた」疑惑を払拭したある日の午後のこと。
帰りのHR直前、
「動くなー! 一斉摘発だー!」
教室のドアを勢いよく開け、ふざけているのか素なのかよく分からない俊也の声に、教室内のほぼ全員の生徒が「うわー!」と蜂の巣を突いたような騒ぎになった。
(ノリがいいというかなんというか……)
知己は頭を抱え込む。
多分、彼らは本気で慌てている。
まるでドラマか何かで見るような、違法のいかがわしい風俗店に警察が踏み込んだかのような騒ぎに、知己が
「お前ら、普段から何を持ってきてるんだ?」
とツッコんだ。
明らかに、摘発されて困る感満載だ。
ただ、章と敦だけは泰然自若としている。
相手が俊也なので、どうにも緊張感をもてないでいる。
すると俊也がムキになって
「持ち物検査だー! 二人とも机の中身を全て出せ! 下手に動くと容赦しない!」
と二人に向かって言った。
「ねえ、俊ちゃん。動かなかったら、机の中身出せないよね」
とツッコむ章の横で
「ちょっと待て。なぜ俊也がそんなことやってんだ?」
と敦が尋ねた。
「学級委員だからだ」
なぜかキリっと答える俊也。
きっと今、心の中で
(ひゅー、俺って、かっこいいー! 先生、見てくれよな!)
と勝手に盛り上がっていると思われた。
「でもさ、それって普通は風紀委員の仕事じゃないの?」
「普通は、な」
俊也の意味ありげな言い方に、敦と章が「?」と頭に疑問符を浮かべた。
「普通は風紀委員の仕事だが、俺がしている。……それというのも、うちのクラスの風紀委員がいないからだ!」
俊也が苦々しく告げる。
「いや、そんなはずはない。各生徒会委員は、ちゃんと4月当初に全部決めた」
4月のLHRで、生徒達からぶいぶい文句を言われながらもなんとか全委員決めた。
生徒会の委員会活動……そんな面倒なものは、俊也以外誰もしたがらなかった。俊也も、門脇に「学級委員はクラス担任と何かと関われる」と吹き込まれなければ、しなかった。振れ幅大きく、今はやる気に満ちている。むしろ空回りしていると言っていいほど、やる気しかない。
ともかく、そんな数合わせでなんとか委員を捻出した嫌な思い出を知己が言うと
「そういや風紀委員って誰だっけ?」
と章が訊いた。
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