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「なーにー?」
章が呑気な返事をすると
「ほ、ほら! みんな机の上に荷物出して準備できたぞ! 早く検査してHRを終わらせよう」
知己が「ライオさん」の話題を避けようと懸命に急かすのだった。
「えー? なんで僕がするのー?」
「お前が風紀委員だからだ」
と知己。
「もう俊ちゃんでよくない?」
「よくなーい」
と俊也。
「ちぇっ。二人とも、後で覚えてろよー」
俊也と知己に謂れのない捨て台詞を浴びせると、章は立ち上がり、掃除道具入れのロッカーから使い捨てのゴム手袋と大容量のゴミ袋を取り出した。
「掃除するのか?」
「ううん。抜き打ち検査」
手術でも始めるかのように厳かに手袋を付けると、ハンカチを広げバンダナのように三角形に折って口元を覆う簡易マスクを作った。
「何するんだ?」
「だから抜き打ち検査だってば。いっとくけど、僕、断捨離だからねー! 『物欲を捨てよ! 喝!』」
宗教的決め言葉を吐くと、章は端から順に机の上を見て回った。
「はい! ヘアワックス、没収ー!」
「漫画、没収―!」
「ゲーム没収ー!」
「CD没収ー!」
章が指先で教科書類をピッピと撥ね退け、下に隠してあったものを的確に見つける。そして、次々と没収品をゴミ袋に投げ込んだ。
その度に「ぎゃー!」「やめてくれ!」「それは兄ちゃんのなんだ!」「これだけは許してくれー!」「お慈悲をー!」という叫び声が上がったが、章は一切構わなかった。
それどころか縋る相手に「喝ーッ!」と威嚇する始末。
(あいつ、暴君だな……)
と知己が思っていると
「うきゃー! 雨の日に吐き替えたと思われるいつかの濡れた靴下らしきもの、没収ー!」
「げー、いつ着たのかさっぱり分からない超絶きったないカビた体操服、没収ー!」
更にオレンジっぽいものや緑っぽいものが付着した衣類もゴミ袋に投じられた。
(え? それは没収しなくてもいいんじゃ……?)
やっと章の言った「断捨離」の意味を理解した頃、没収品すべてが投じられたゴミ袋の中は混沌と化していた。
「えっちなDVD、没収ー!」
「使う予定ないゴム没収ー!」
ついでに言わなくていい一言まで調子に乗って付け足している。
(また無駄に敵を作っているぞ、章……)
知己は柳眉を寄せた。
「うっ……!」
そんな暴君章の手も一瞬怯んだものがあった。
「……おえぇぇー! いつのか分からない封の開いたパン没収ー!」
指先で摘まんで、やっぱりそれもゴミ袋に投下する。
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