抜き打ち検査

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(※この頁、生理的に気持ちの悪い表現があります。苦手な方は逃げてください。私は書いてて嫌でした。念の為、ちょっと下げます。) 「ただの虫じゃねーか」  俊也が言うと 「どこがの虫?」  ベソかいた敦が章にくっついたまま反論した。 「色、(フォルム)、動き、全てにおいて不快! 殺虫剤メーカーもどうして奴らをこぞってパッケージに採用するのか分からん!」 「3対の脚があって羽があって頭胸腹に分かれる。立派な昆虫だな」  と知己が言うと 「生物学的に語るな!」  敦は知己にも容赦なくツッコんだ。 「床を這っていたかと思うと、突然、飛びやがる。行動が読めなさすぎ! 情緒不安定か?」 「奴らの飛行能力は低い。だから飛ぶのは床を這っている時ではなく、壁や天井に居る時に限られる」 「だから、生物学的に語らんでいい!」  敦のツッコミの嵐はやまない。  他の生徒達も口々に 「俺も別に。逃がす方が嫌だから、さっさと叩いて殺す(ヤる)」 「潰れると体液出るのが嫌だから、俺は殺虫剤使う」 「殺虫剤ない時、食器用洗剤かけても死ぬよ」 「あれ(食器用洗剤)で死ぬんだから、意外に洗剤には強い成分入っているんだなって思った」  と熱く語り始め、敦は「ヒ―! ヒー!」と某特撮子供向けドラマの悪役下っ端のごとく声を上げ続けた。 「洗剤はコスト高だ。もっと、コスパいい方法がある」  と知己が言った。 「え? 何? 何?」  俊也が食いついた。 「お湯をかける」 「……先生、顔に似合わず意外にえげつない殺し(ヤり)方するんだな」  聞いた俊也は、ちょっと引いていた。 「ううぅ……さすが汚物を机の中で(はぐく)む奴らだ。こんな話題で盛り上がりやがって」  涙目で敦は罵ったが、いまだに章にくっついたままではなんとも様にならない。しかも頼りの章は、「ソダネー」「ソダネー」とさっきから、北海道カーリングチームのような返事しかしない。 「章、どうした? さっきから変だぞ」  奇妙な表情を浮かべている章に違和感を感じて、敦が訊くと 「ウウン。何デモナイヨー」  章はやっぱりゲーム実況する合成音声みたいに言った。 「もしかして、お前もアレを見て気分が悪くなったのか?」 「ソダネー。気分ハGGJ」 「……DAIG〇か?」  と言う敦の横で俊也が「ウィッシュ!」とポーズを決めた。  敦に続き、知己も泣きそうになりながらゴミ袋を廊下に出し、この日の抜き打ち検査は終わった。  帰りのHRで知己は憐れみ 「要る自分の物は、袋の中から拾ってもいいぞ」  と言ったが、誰も拾いには行かなかった。  こうして3年3組には「捨てられたくなくば、要らないものを持ってくるな」という鬼の教訓だけが残った。           ―抜き打ち検査・了―
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