夏を前にしての俊也の武勇伝 1

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 須々木俊也の地を這う中間テストの成績に、教師陣は頭を悩ませた。 「思ったよりも、全然点数取ってくれない」 「中学生レベルの問題なのに、誤答を敢えて書きやがる」 「あいつの頭の中は、どうなっているんだ?」  知己は思った。 (あいつ、本当に授業を聞いてないもんな……)  授業を聞けばきっとテストも解けると思われたが、俊也の耳が既に教師の言葉を拒否していた。  日本語で語られる授業の筈なのに、最初っから理解できない言語……例えばフィンランド語かハンガリー語(※1)か何かで話されているような気になって、全く聞こうとしないのだ。  唯一聞いている知己の授業も、 「ああ、先生の声……いいな。聖母の声のような……。心地ぃ……ぐぅ」  と途中で子守歌よろしく聞こえるので、結果として授業の内容は頭に残っていない。  だが、どの授業も一応出席はしているので頭の片隅には何かが残っているらしい。  現国では、「次の作者の名前を答えよ」というラッキー問題を出してもらった。八旗高生の現国力を深刻にとらえている教師の配慮で、顔写真もつけている。文章だけではきっと問題を解いてもらえないと思った現国教師の苦肉の策である。  ちなみにこれは現国に限らない。イラストやカットでヒントがちりばめられた八旗考査は、ほぼ絵本状態のテストだ。 【問】次の作者の名前を答えよ。(※2) ①「雪国」→「吉幾三」 ②「高瀬舟」→「海オウムガイ」 ③「吾輩は猫である」→「猫」 「①はまだ人間だからいいとして、②と③はどうなんだ?」  な誤答をやらかした。 「だって、②はなんか『オウムガイ』みたいな名前だったと覚えてた。ただ苗字がどうしても思い出せなくって……。貝なら『海』かなぁと思って」  微妙に掠っている気がしないでもない。 「③は、どうなんだ?」  と聞けば 「③は『問題をよく読んだら、答えを書いてくれているじゃねえか! ラッキー!』と思って飛びついた」  と言う。  もちろん添えられた写真は猫ではない。現国教師の優しい配慮の写真付き問題は、何の意味もなしていなかった。 (※1)「世界一難解な言語」でググったら、出てきたのでそれを参考に書きました。発音とか綴りとかがアジア圏内言語使用者には難しいそうです。 (※2)正答は①川端康成②森鴎外③夏目漱石です。って、正答書く必要あったでしょうか?
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