夏を前にしての俊也の武勇伝 1

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 古文の問題の 【問】古語ラ行変格活用動詞を全て答えよ。  もなかなかに壮絶だった。  国語の答案を見せられた知己が軽く凹んでいると、隣の席のクロードが 「俊也君、なんと答えているんです?」  興味津々で聞いてきた。  そこには 「ありよりのあり」  と書かれていた。 「普通『ありをりはべりいまそかり』の呪文、間違えますか? 私だって分かりますよ」  クロードは爆笑していた。 (あ、クロードもあれはだと思ってんだ)  ハーフのクロード、理数系の知己にとって古文文法は呪文に思えた。俊也に至っては、呪文をまともに覚えることすらできない。 「彼、数学の先生も困らせてましたよ。全く式は書いてないけど、答えの欄すべてに『0あるいは1』とデジタル回答をしていたそうです」 「そうか……」 「ふざけていますよねー」 「いや、多分、それ全部本気だ」  知己が遠い目をする。  きっと、俊也にふざける余裕なんてどこにもない。  ない知識を精一杯フル稼働しての解答だろう。  何か聞き覚えのあることを書いたに違いない。 「実はな、俊也……理科でもやらかしてるんだ」  化学の問題で 【問】恒星は一等星~六等星に分けられる。これは何によって等級が分けられているのか?  という小学生レベルのラッキー問題を出した。  地軸だの自転だの難しいことを聞いても、多分、答えは返ってこないと思ったからだ。それなのに、俊也は 「目の良さ」  と答えた。 「……」 「知己。その顔、何か思い当たることがあるのですか?」  クロードが知己の微妙な間と表情に気付いた。 「俺がな、言ったんだよ。少しでも興味持ってもらおうと。星は明るさで一等星から六等星まで分けられる。目のいい奴は6等星まで見えるけど、0.1くらいの視力の奴は一等星がやっと見えるくらい……だと」 「ははあ。その雑談だけを覚えて解答された……と」  合点がいった。 「恒星の明るさを、ランドルト環(※)扱いしやがって……。いや、俊也は悪くない。悪いのは、俺だ。俺が悪いんだよ。無駄に雑談交えた、俺が……俺が……」  ブツブツと言い始めた知己に嫌な予感が過る。  このままでは「強制補講」の名の元、夏休みに俊也の顔を拝まねばならない。  ちなみに章は1位。  敦は2位である。  去年と違って、補講にかすりもしない位置だ。  章からは 「センター試験とか面倒だから、AO試験受けて冬休み以降は高校生活ラストをエンジョイする予定なんだ。だから今年は残念ながら強制補講受ける気なんてサラサラないよ。ごめんね、先生」  と謎の謝罪を受けた。  敦に至っては 「俺が本気を出したら、こんなもんだ」  とやたらと威張っていた。知己との約束の末にズル休みをやめて授業に真面目に出たら、成績もそれにつれてメキメキと上がっている。 (お前らは、最初から真面目に授業とテストを受けろ)  と知己が思ったのは言うまでもない。 ※ランドルト環・・・視力検査の「C」のことです。この間、視力検査に行ったら「E」になってて、びっくりして答えられずにあやうく視力が下がる所でした。急に変更するの、やめてほしいです。(個人的な愚痴)
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