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夏を前にしての俊也の武勇伝 2
「あれ? もしかして、ライオさんか?」
参考書コーナーを一通り見て回った先、新書の本棚の前で佇む将之を見つけ、俊也は声をかけた。
散々だった中間テストから一週間後の土曜日、俊也は
「このままでは俺だけ強制補講じゃねーか」
と悲嘆に暮れていた。
章はぶっちぎりの1位だし、授業を真面目に受け出して敦は2位になっていた。
「いや、俺だけ強制補講ってある意味美味しくね?」
と思わないでもない。
もしもそうなったら、誰にも邪魔されずに愛しのラノさんこと知己と共に過ごすことができるのだ。
「いやいやいや、3年でこれはマジでやばいっしょ?」
正確には知己とだけではなく、現国数学英語……ありとあらゆる教師との楽しい夏休み中の強制補講だ。
現国も数学も英語も化学も、みな、三年生には易しい……というか優しい問題しか出していない。
なぜなら、就職内定決まった生徒もいる。大学進学にしたって、そうだ。
ここで留年などされたら、想像もできない大変なことが起こるのだ。
それで通常でも優しい問題だったが、三年生にはさらに優しい問題にしていた。三年生のテスト問題は、頭痛薬並みに半分は教師の優しさと半分は教師の都合でできていた。
三年生で赤点を取ったのは進学コースの俊也、ただ一人であった。
これにはさすがの俊也も危機感を抱き、夏休み知己と二人きりの時間という甘い邪念を振り払い、一念発起して参考書を買いにでかけたのだ。
そのショッピングモールの一角、大規模な本屋で俊也は将之に出会った。
「……確か……えーっと……先輩のクラスの……」
(釣り目君……じゃなくって)
10秒ほど俊也が待った後に、将之が
「俊也君!」
と記憶を絞り出した。
「もしかして、忘れてたんですか?」
「いや、まさかここで俊也君に会うなんて思わなかったから。意外過ぎる場所で思いがけない人に会うと、名前がなかなか出ないよね」
「ん?」
俊也はちょっとディスられているような気がしたが、
(きっと気のせいだな)
と思った。
「参考書を買いに来たんですよ」
と言うと、
「ますます意外だ」
と将之が言った。
「そんなに意外ですか?」
(まあ、俺もガラじゃないよな)
と俊也も思う。
これまでに買った参考書も、どうにも読む気になれずに綺麗に本棚に並べている。並べているとなんだか勉強した気になるのだから、不思議なものだ。それで毎度痛い目に遭っているのだが、今度こそ読む気になる新しい参考書に出会えると思って探しに来た。
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