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(そういや、この人……いつも高級ブランドのいい服着てる……!)
俊也は、これでも梅ノ木グループレストラン部門社長令息。
若いながらも、いい生地や仕立ての良いオーダーメイドの服に目が効く。
(ただの庶民にしては、金回りもいいよな)
ホテルのランチ情報とかも詳しかった。
(あ。思い出した。この人、会った時にとある組織の人って名乗ってた……!)
将之が教育委員会だということはすっかり忘れていた俊也だった。
(ライオさん…………なんか、めっちゃウラの顔が有りそうな……)
俊也の頭の中は、大変なことになっていた。
百畳はありそうな広間。
そこに虎と龍が描かれた派手な金屏風。
その前で畳の上に置くにはどうなの? 的に黒革製のごっついカウチに将之がどっかりと座っている。
高級スーツを着て、外国製の葉巻を咥え、足を組みなおして悪い顔で笑う将之の姿が目に浮かんだ。(※1)
「これ……? ぐ、グル……?」
不安そうな視線で誰にも見られていないか周りを確認し、白い粉を買い物袋の奥にそそくさと押し込んだ。
「何を焦ってんの? ただのグルタミン酸ナトリウムだよ。妹が好きなんだ」
「キメるとヤバイ薬ですか? 妹さん、常習のヤバイ人ですか?」
当然、俊也はまったくふざけていない。
きっと一発で覚えられないカタカナ多めの「グルタミン酸ナトリウム」は、将之だけが取引できる特別な商品だと思っている。
「頼むから、君は人の話を聞いて。礼ちゃんをヤバイ人にしないで」
「ん? 礼ちゃん?」
(どこかで聞いた気が……)
と俊也は思ったが、記憶が蘇るよりも先に俊也の第六感が閃いた。
「あの……頼りになる男・ライオさん」
突然、将之の手をぎゅうっと握りしめて離さない。
「……何、その二つ名?」
将之の眉が嫌そうに、ぴくりと寄った。
「ライオさんの荷物も重そうだし、せっかくこうしてここで会えたんだ。どこかにシケこんで、茶ぁしばきませんか?(※2)」
「ごめん……。君が何を言ってんだか分かんないんだけど」
将之は俊也の握った手を小指から順に開かせて、自分の手から離そうとしたが、
「あの……ちょっと、痛いんだけど……。先輩以外の男に手を握られて喜ぶ趣味もないんだけど……」
ごちゃごちゃ言う将之の言葉はまるで耳に入らない俊也に馬鹿力で握られ、脱出不可能だった。
(※1)俊也のゲームとかで仕入れた謎の和洋折衷ヤ〇ザ妄想。
(※2)「しばく」という言葉から俊也が勝手に連想した、ヤク〇が言いそうだと思ったお茶の誘い言葉。実際は、関西圏では普通にお茶を誘う時に使うそうです。
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