夏を前にしての俊也の武勇伝 3

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夏を前にしての俊也の武勇伝 3

「……で、何か話があるの?」  必死の俊也に負けて、仕方なくモール一角の喫茶店に入った。  テーブルを挟んで将之と俊也は向かい合い、将之は「本日のおすすめコーヒー」を、俊也はコーヒーフロートを注文した。 「お時間取ってもらって、すんません」 「全くだよ」  将之の本気の受け答えを、俊也は大人の辛口冗談だと流した。 「えーっとですね、ほら。ライオさんって頭良さそうだし。ちょっと俺の相談に乗ってもらおうと思って」 「実際にいいよ。小学校から大学まで、首席だった。新入生代表挨拶も卒業生代表挨拶も全部僕だったから」 「ふふ、ナチュラルな自慢ですねー。マジ受けるー」  やはり俊也は、大人のウィットに富んだジョークだと受け止めて笑った。  将之の大人の冗談にすっかり気持ちがほぐれ、俊也は 「実は俺……成績が悪くって……」  と、ここに誘った理由を語り出した。 「本屋でそう言ってたね。第六感や神頼みにも限界があるから、参考書を買いに来たって」 「とはいえ、参考書は全然役に立たないんですよね。コレといったものに出会えずに、本棚に増えるばっかりで」 「参考書は本棚のディスプレイじゃない。読まなきゃ役に立たないよ」  将之は、ため息を吐いた。  つられて俊也も吐く。 「だって面白くないんだ。参考書は読んだら眠くなる。きっとα(アルファー)波(※)が出てる」 「出てないよ。多分」  呆れて、将之が言った。 「俊也君、勉強が嫌いなの?」 「大嫌い。ちーっとも面白くない。好きな人なんて居るのか?」 「少なくとも僕は好きだよ」  と将之が言った絶妙なタイミングで、本日のコーヒーとコーヒーフロートを店員のお姉さんが持ってきて、小さく「きゃっ」と声を詰まらせた。 「あの……、コーヒーのお客様は……?」 「あ、僕です」  と将之が手を挙げる。  なぜか赤い顔して店員は二人分の注文の品を置くと、そそくさと厨房に帰って行った。 「俊也君、彼女に何かした?」 「……今の状況を俺の所為にする?」  さすがにこれはスルー出来ずに俊也が突っ込むと 「今の、僕流の冗談だったのに……」  と将之がぼやいた。 「勉強が面白くないのは、発想が貧困だからだよ」 「え? 発想の問題?」  俊也が、アイスの上の部分を一掬い口に運んだ。  滑らかで上品な冷たい甘さが、参考書を探しまくった体に沁みる。 「そう。普通に勉強したって面白くないし、すぐに忘れちゃう。そこは萌えで補完しないと」 「萌え?」  聞き返した俊也に、更に将之が質問した。 「君、何か好きなことある?」 (※)α波・・・脳から出る電波の一種で、ゆったり落ち着いた時にでる波形をいう。私の場合、昼食後によく出ている。会議中にこれと戦って、よく負けてます。
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