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「好きなこと? そんなの急に言われても……」
本当は、俊也の頭の中にはすぐに一人の人物が浮かんでいた。だが、その人の名を口にするのはどうしても憚られた。
「何でもいいんだ。好きなモノに絡めて勉強すれば、興味が湧いて捗るし忘れにくいってもんだよ」
「そ、そっか……。確かに……好きな人なら……考えるだけで萌えますよね?」
俊也が、今度はアイスのコーヒーに接しているシャリシャリになった部分を突つきながら同意した。
「その話の展開に嫌な予感しかしないけど、ね。ちなみに誰?」
(ん? ライオさんの視線が険しくなっているような気がする……が、きっと気のせいだな)
と俊也は思った。
「それ、やっぱり言わなくちゃダメ?」
「とっても重要なこと」
それから少しの沈黙が降りた。
厨房から店員のお姉さんが、こちらをチラチラ見ている気がしないでもないが、俊也は思い切って
「……ら……、ラノさん」
と言った。
「………………嫌な予感は的中だ」
ぼそりと将之が呟いた。
「そんなにラノさんが好きかい?」
聞きながら、心の中で(けっ!)と将之は悪態をついていた。
(とは言っても、あのローションの使い方も知らない俊也君だ。「好き」って言ってもたかが知れている。危険度は門脇君やクロードさんの比じゃないだろう)
「そりゃあ……毎日、夢に見るほどに」
「夢?」
「はい、夢ですが……」
将之に聞かれ、俊也がぼそぼそと語り出した。
(どうせ、チイチイパッパ(※)な夢だろ)
と思っていると
「まず、押し倒します」
割と力業だった。
(短絡的だな。残念だが、それだとすぐに先輩にカウンター食らうぞ)
「あのロングドレスのスカートめくって」
(女装設定だったとは驚きだ。そっか、『ラノさん』だもんな。しかしスカートめくりとは……。やはり、おこちゃま)
「ちょっと嫌がって恥じらうラノさんの足を押さえて、股間に顔を埋めるのが俺の夢です。萌えますよね?」
(……思ったより大人だった)
途中から「夢」の意味が変わっていると思われた。
「もれなくその股間には君と同じものが付いてるけど……」
「でも、俺、十分にイケます!」
「え? それでイくの?」
「めっちゃイケますよー!」
親指立てて自慢げに語る俊也に、将之は
(……先輩めっ! 青少年をまたもや路頭に惑わして!)
と忌々しく思った。
「……まあ、いいか」
「いいんですか?」
「どっちかと言うとよくないけど」
「え? 良くなかったですか? どっちなんですか?」
俊也が困っていると、それには答えずに
「その妄想の力で、勉強していくんだ」
と将之がアドバイスした。
(※)チイチイパッパ・・・童謡「すずめの学校」のワンフレーズ。将之は「幼稚な」という意味で使っていますが、調べたら、エッチな裏の意味があって震えました。なんという奇遇。
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