夏を前にしての俊也の武勇伝 3

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「好きなこと? そんなの急に言われても……」  本当は、俊也の頭の中にはすぐに一人の人物が浮かんでいた。だが、その人の名を口にするのはどうしても憚られた。 「何でもいいんだ。好きなモノに絡めて勉強すれば、興味が湧いて(はかど)るし忘れにくいってもんだよ」 「そ、そっか……。確かに……好きな人なら……考えるだけで萌えますよね?」  俊也が、今度はアイスのコーヒーに接しているシャリシャリになった部分を突つきながら同意した。 「その話の展開に嫌な予感しかしないけど、ね。ちなみに誰?」 (ん? ライオさんの視線が険しくなっているような気がする……が、きっと気のせいだな)  と俊也は思った。 「それ、やっぱり言わなくちゃダメ?」 「とっても重要なこと」  それから少しの沈黙が降りた。  厨房から店員のお姉さんが、こちらをチラチラ見ている気がしないでもないが、俊也は思い切って 「……ら……、ラノさん」  と言った。 「………………嫌な予感は的中だ」  ぼそりと将之が呟いた。 「そんなにラノさんが好きかい?」  聞きながら、心の中で(けっ!)と将之は悪態をついていた。 (とは言っても、あのローションの使い方も知らない俊也君だ。「好き」って言ってもたかが知れている。危険度は門脇君やクロードさんの比じゃないだろう) 「そりゃあ……毎日、夢に見るほどに」 「夢?」 「はい、夢ですが……」  将之に聞かれ、俊也がぼそぼそと語り出した。 (どうせ、チイチイパッパ(※)な夢だろ)  と思っていると 「まず、押し倒します」  割と力業だった。 (短絡的だな。残念だが、それだとすぐに先輩にカウンター食らうぞ) 「あのロングドレスのスカートめくって」 (女装設定だったとは驚きだ。そっか、『ラノさん』だもんな。しかしスカートめくりとは……。やはり、おこちゃま) 「ちょっと嫌がって恥じらうラノさんの足を押さえて、股間に顔を埋めるのが俺の夢です。萌えますよね?」 (……思ったより大人だった)  途中から「夢」の意味が変わっていると思われた。 「もれなくその股間には君と同じものが付いてるけど……」 「でも、俺、十分にイケます!」 「え? それでイくの?」 「めっちゃイケますよー!」  親指立てて自慢げに語る俊也に、将之は (……先輩めっ! 青少年をまたもや路頭に惑わして!)  と忌々しく思った。 「……まあ、いいか」 「いいんですか?」 「どっちかと言うとよくないけど」 「え? 良くなかったですか? どっちなんですか?」  俊也が困っていると、それには答えずに 「その妄想の力で、勉強していくんだ」  と将之がアドバイスした。 (※)チイチイパッパ・・・童謡「すずめの学校」のワンフレーズ。将之は「幼稚な」という意味で使っていますが、調べたら、エッチな裏の意味があって震えました。なんという奇遇。
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