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「やり方を説明するから、よーく聞いててね」
人差し指を立てて、将之がニコリと笑った。
「とりま不本意だけど、君とラノさんがデートすると仮定しよう。例えば……そろそろ夏だからね。夏と言えば、花火。二人で花火を見に行くとしよう」
「うぉ! それ、いいですねー」
「ほーら、浴衣姿のラノさんを想像してー」
言い方が催眠術師っぽい。
俊也も催眠術にかかった感じで、目がトロンと蕩けてきた。
「いいですねー。紺地に白の萩模様が抜いてある浴衣。浴衣と同じ紺色のシックな帯締めて……わあああああ、色っぽーい。滾るー!」
(恐ろしく妄想力あるな、この子……)
具体的に語る俊也の意外な才能に、将之が苦笑いを浮かべる。
「ん? そこ角帯じゃないんだ?」
「角帯? 男用の浴衣で考えるんですか?」
(あ、浴衣姿も女装だったのか)
筋金入りのラノラーっぷりに、将之が
「いや、そこは君の好きでいいや」
妄想は本人が滾る方がいいだろうとそのままにしておいた。
「浴衣デート……。激しく萌えますね!」
またもや親指を立てて、俊也がスペシャルな笑顔を見せた。
「だけど、デートの花火の色が白だけじゃつまらないだろう? 盛り上がらないよね?」
「あー、分かった! 花火の色がカラフルなのは以前、先生が実験で教えてくれたヤツだ!」
「そう。そこで『炎色反応』が必要なんだ。色鮮やかな花火だと、デートも盛り上がるだろ?」
将之の話を聞いているのかいないのか、俊也は、うっとりとしていた。
艶やかな浴衣姿の知己が、裾が乱れるのも構わずに、はしゃいでいる。
手には、水が入ったビニール製透明巾着袋。中身は、さっき俊也が夜店でゲットした金魚が1匹泳いでいる。
「ありがとう、俊也。俺、この金魚、大事にするよ」
目を細めて喜ぶ知己の肩に、俊也は手をかける。
すっかり俊也とラブラブな状態で見上げた夜空には、ドーンと爆音轟かせ、大輪の花火が咲いていた。
「俊也ー! 見ろよ、あの花火! 赤い色はリチウム、黄色はナトリウム、紫はカリウム燃やしているんだぞー!」
花火を指さして、知己が嬉しそうに言う。
「……なるほど。『リアカーなきK村。動力借りるとするもくれない、馬力で行こう!』ですね(※)」
突然俊也が炎色反応語呂合わせを唱えた。
「俊也君。なんだか、いきなり頭良くなったね……」
あっという間に妄想補完学習術を駆使してみせた俊也に、将之は心底感心した。
(※)知己が炎色反応実験の準備シーンがこちら。
https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=233
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