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知己が鼻息荒く
「お前ら、もう5時だから帰れ! 俺も帰るから!」
と章達を帰るよう促した。
知己としては、一刻も早く明日以降の授業で「首謀者を任命する者」=主催者の割り出し作戦を練りたいのだろう。
半ば放り出されるように理科室を追い出され、仕方なく二人は特別教室棟から集中下足室のある管理棟まで並んで歩いた。
遠く部活の声が聞こえるが、彼らもまた帰り支度を整えるために足早に部室に戻っているようだ。
春の日は長く、まだ明るい。渡り廊下に二人の影が長く伸びた。
「章」
特別教室棟を出て、確実に知己に聞かれない距離がとれたのを確認すると俊也が章に掴みかかった。
「どうして、あいつにそんなに肩入れするんだ?」
「肩入れ? してないよ」
章が無造作にその手を払いのける。
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「俺、知っているんだぞ」
「……何を?」
思いがけない俊也の言葉に、章は怪訝な色を浮かべた。
「あいつが……いつだったか、お前に『やめさせられないか?』って頼った時すっげー嬉しそうにしてたもん」
「そんなの、してないよ」
そんなことで嬉しくなるなんて子供じゃあるまいし、と章は軽く笑うが俊也は
「いーや、嬉しそうだった。俺はずっと見てたから分かる」
と言ってきかない。
「だから、ゲームのヒントをベラベラと喋ってやったんだろ?」
「何、言ってんの。そんなことしてないつもりだけど」
「けど?」
章の、うっかり付けてしまった語尾に、俊也の目つきが一層厳しくなる。
これはごまかせないなと観念し
「もう……。僕は最初っから言っているじゃない。面白い授業とか、僕たちが答えやすいように言い換えたりヒント出したりとか。面倒だけど悪いヤツに思えないって」
章は正直な気持ちを伝えた。
「だからって、こんなの……俺達に対する裏切りだ」
「だーかーらー、裏切ってないって。それに毎度毎度決定打出しちゃったの、俊ちゃん自身じゃない」
「ああいえば、こう言いやがって……。くそー!」
口で章にかなうわけない。これまでだって一度たりとも勝った試しはない。
「ねえ、俊ちゃん」
「何だよ!」
苛立ちまぎれに答えれば
「そろそろ僕たちも考えを変えるべきだよ。先生は、ずっと僕たちに合わせようと頑張ってるんだし、他の先生とは違うんだって」
穏やかに章が言う。
「そうかもしれない……けど……」
「けど? 何?」
今度は章が訊く。
「……」
俊也はそのまま黙り込んだ。
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