夏を前にしての俊也の武勇伝 3

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「本当だ。ラノさんに絡めたら、急に勉強が楽しくなってきたぞ」  アイスが溶けだして、白く濁ったコーヒーフロートを俊也は一気に吸い上げた。  ストローがグラスの底に付き、ずずず……と音を立てた。 「これって応用も効きます?」 「そりゃあ、もう。なんにでも行けると思うよ」  と言って、将之もコーヒーを飲み干した。 「じゃあ、例えば現国の『次の作品の筆者は?』の問題では、どう妄想したらいいのかな?」 「やってみよう。問題出して」 「『雪国』の筆者は……?」 「それはね……」  将之が少し考えて、 「ラノさんが雪国出身だとしたら? その地元を紹介してくれた人って、すごく有難い存在に感じないか? ちなみに川端康成だよ」  とウィンク交じりに答えた。 「川端康成、いい人だなっ!」 「じゃあ、『吾輩は猫である』の筆者は……?」 「ラノさん、黒猫が好きだよ」 「え? そうなんですか?」  新しいラノさん情報に俊也が目を輝かせる。  ラノさんが、猫じゃらし持って黒猫と戯れている姿を想像し (あ、やべ。萌える……)  俊也は、幸せホルモンが一気に放出されるのを感じた。 「いや、嘘だよ」 「なんだ、嘘なのか。じゃあ、さっきの雪国出身というのも?」 「もちろん、適当に言っただけ。  でも、そうやってこじつけでいいから発想を飛ばして、ラノさん絡みで覚えていくんだ」 「なるほど」 「ちなみに答えは夏目漱石だよー」 「うぉー! 夏目漱石、萌え作家かよー! 神作品、ありがとー!」  喫茶店のお姉さんが 「……なーんだ、萌え作品を語り合う同好の士か」  と残念な視線を送る中、俊也は着々とその場で『ラノさんで萌えを補完。思考変換で幸せホルモンどばばば』作戦を習得した。  こうして否応なく巻き込まれた将之の見えない苦労と、俊也の低学力を重く見た八旗高校教師の「今回は小学生レベル問題も入れよう!」という表の努力のコラボで、期末テストでは奇跡的に点数が取った。俊也は実力で赤点を回避できたのである。  ちなみに今回の平均点は82点という高得点。八旗高校生の誰もがホクホクの笑顔で夏休みを迎えられたという伝説の期末考査にもなった。           ―夏を前にしての俊也の武勇伝・了―
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