慶秀大学海浜研究所 1

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「……家永。百万回言うが、学校の先生の夏休みが暇だと思うなよ」 「それは、さっきも聞いた」 「だったら……!」 「それでも……!」  ファミレスではやや大きめの二人の声が合わさった。思ったよりも大きな声になり、周りのテーブルから冷たい視線が注がれて知己と家永は思わず口を噤んだ。  少しして、先に口を開いたのは家永だった。 「それでも、夏休みは休暇取りやすいだろ? 毎年『年休腐って困る』って言っているじゃないか」 「……そりゃそうだけど」 「平野、頼む。来てくれ」  家永が両手をテーブルにつけ、がばっと深く頭を下げた。 「……」  もちろん、長きにわたる親友・家永を助けたい。  そうは思うが 「俺は、いいけど……将之が……」  月に一度家永に会いに行くのもいい顔しない将之が、泊りを許すはずがない。 (絶対になんか言われる……)  将之におうかがい立てて、「いい」と言ってくれるわけがない。  それどころか、メンドクサイ性格を発動し、グチグチ文句を言い始めるに決まっている。  将之は、知己の親友・家永晃一が大嫌いだった。その上今回一緒に行く門脇とは犬猿の仲だ。 「……はぁ」  溜息ついた知己が 「2翻(りゃんはん)ぶち当てられた(※1)気分だ」  と漏らした。なにげに菊池は頭数に入っていない。 「……平野君」  家永が畏まって『君』付で呼んだ。 「何?」  あからさまに怪訝な顔する知己に、家永はメニューを差し出した。そして 「ここの季節のパフェ、美味しいぞ。先月はマンゴーだったが、今月はメロンだ。良かったら食べないか?」  分かりやすい買収行為に及んでいた。  結局、親友の頼みに折れてメロンパフェ(※2)で手を打った知己は、その夜、将之に相談した。 (※1)2翻(りゃんはん)・・・麻雀用語。役が二つってこと。もしくは同等の大きな役。当てられるとダメージ大きい。裏ドラ乗ったら大変なことになる。中国語で両のことを「りゃん」と言うらしく、当たり牌が二つあることを「両面(りゃんめん)待ち」と言ったりするので、うっかり「両面テープ」を「りゃんめんテープ」と言ってちょっと恥ずかしい思いをしたことがあります。 (※2)メロンパフェ・・・中位礼の好物。私もいつか食べてみたいです。
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