慶秀大学海浜研究所 2

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(なんか、めちゃくちゃ甘えモードに入っているな)  知己は、されるがままにしていると 「とにかく、家永さんが言うには『まじで切羽詰まっている。邪な思いは一ミリもない』って言うじゃないですか。門脇君も参加というのがすっごく嫌だけど、家永さんには命助けてもらったがありますからね。これでチャラってことで……」  顎の下の知己にではなく、正面を向いて、何やら独り言のように将之がつらつらと語る。 「お前の借りを俺の労働力で払うなよ」  とりあえず知己は突っ込んだ。 「僕の命の借り……思いのほか、お高くつきました」  やはり将之は、どこか不満そうだ。 「……ん? 今、『家永が言うには』とか言ったか?」  頭を外側にずらして、将之の顎から逃れて知己は言った。 「お前、家永と話したのか?」 「はい」  将之は「しましたが、それが何か?」みたいな顔をしいる。 「じゃ、俺の話の内容、あらかじめ把握していたのか?」 「そーでーす」  さっきと同じ軽いノリの将之に 「狡いな! 俺がちゃんと話すかどうか試したんだな!?」 「そうなりますね」 「何だよ、もー!」  知己は、ぷぅっと膨れた。  とても30歳の男の顔ではない。  だけど、 (めっちゃ可愛い)  と将之は思わず笑ってしまった。  ついでに回した手に力を込めてしまい、ぎゅうっと知己を抱きしめ、今度は右肩に顔を乗せた。  甘えんぼの抱っこから、急に情熱的なハグに変わって 「……おい、苦しいぞ」  知己が恥ずかしさに、居心地の悪そうにもぞもぞと体を動かした。 「僕としては、家永さんや門脇君のいる狼の群れに30歳の子羊放つ真似したくなかったんですが」  30歳の子羊に矛盾と悪意を感じる。 「僕はどうせアメ研行っているし、家永さん困っているみたいだし、先輩が行きたいんならいいかって気になりました」  将之にしては珍しいことだった。  自分が不在なら、なおのこと、知己には家に居てほしいと言いそうだ。  それもこれも、家永が将之にあらかじめ話を通してくれていたおかげだろう。 「しかし、家永とどうやって話をしたんだ?」 「不本意ながら、実はケーバン交換した仲でして」 「いつ?!」  正直、知己はめちゃくちゃ驚いていた。 「ん-っと、先輩の誕生日に家永さんをご招待した時かな? それとも僕の虫垂炎の時だったかな? いつだったか忘れましたが、意外に僕ら仲良しなんですよ」  やっぱりにっこり笑ってみせる将之に、今度は嘘寒さを感じた。
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