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「笑っている場合か、門脇君。今、お前は無謀なことをふっかけて、俺の誘いを断ろうとしてたというのが判明したんだが?」
家永が、先ほどの門脇の話を蒸し返した。
「そうとも取れるな」
門脇はしれっと言った。むっとした家永に、
「冗談だよ、家永先生。本当は、知己先生は絶対に来ると思ってた」
またもや「絶対」を付けて言うのだった。
(門脇の「絶対」は、何がどう「絶対」なのか、さっぱり分からないな)
知己が思っていると
「知己先生は、マジで家永先生には甘いって俺は知ってたからな」
と付け足した。
「……普通だ」
知己は憮然として、答えた。
(何を言い出しやがる、門脇は……。将之が聞いたら、またややこしくなるじゃないか。アメリカ行っててくれて本当に良かった)
門脇のおかげで、学生時代と変わらぬ町並みの懐かしさもすっかり吹っ飛んでしまった。
「だって、コーヒー淹れるって行ったら、俺達ほっといてホイホイ研究室についていっちゃうし」
いつかのオープンキャンパスのことを言っている。
「月に一度、先生達は会ってるんだろう? そんなに会ってよく話すことあるな」
月一逢瀬に門脇も参戦したことがあった。この辺の事情も門脇に掴まれていて、知己は気まずい。
菊池だけは相変わらずキョトン顔だ。会話に入っていけない。
「門脇。お前、本当に無駄に記憶力がいいんだな」
さすがにこれ以上門脇に喋られるのは困ると、知己が皮肉交じりに言う。
「だから、大学生になれたんじゃねえか」
門脇もきっちり言い返す。
「家永先生。俺が大学に来て、嬉しいよな?」
と同意を求めた。
家永は「あー、嬉しい。嬉しい」と、全く感情込めずに棒読みで返事をした。
大歓迎とまではいかないが、家永がこんな風に学生を受け入れるのは珍しい。ドライな家永にしては、門脇に肩入れしているのが分かる。
(よほど門脇が優秀なんだな……)
と知己は思った。
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