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「変な勘繰り入れるなよ。俺と家永の関係は、お前と菊池の間柄みたいなもんだ」
知己は言い返した。
「俺と、菊池……?」
門脇が嫌そうに菊池を見つめた。菊池も、同じように嫌そうにしている。
「……俺達はただの腐れ縁だぞ?」
門脇が菊池を指さして言うと、家永からも
「俺のこと、『腐れ縁』だと思っていたのか?」
と何やら悲し気なコメントが添えられた。
「いや、あの『腐れ縁』ではなく『親友』だと言おうと思って……」
思わぬ誤解を招いたと思った知己が慌てて取り繕ったが
「冗談だ。平野の言いたいことは分かっている」
家永は全く気にせずに、施設のカギと警備解除カードを取り出していた。
無骨なコンクリート製の門には扉も柵も付いていない。ブロック塀に『慶秀大海浜施設』と彫られたいかつい銘板がかかっている程度のそっけないものだ。扉のない無骨な門を通った先は、10mほど芝生の広場。更にその先に、これから一週間生活する三階建ての鉄筋コンクリートの施設があった。壁は、潮風にさらされて古い風貌を呈しているばかりか、奥の方は所々に蔦が這って侵食している。山と海のちょうど中間地点に建っている。
「思ったよりも広い建物なんだなー」
初めて訪れた門脇は、見上げながら言った。
「マックス50名が寝泊まりできるけど、今回は俺達4人だけだ」
家永が警備解除のカードを当てた後、出入り口の大きな両開きドアは手動の鍵で開けた。
「古いのに、変にハイテク」
門脇が茶化すと
「警備の人や管理人を雇うと金がかかる。結局、機械警備の方が安く済むんだ」
切実な学校事情を家永は洩らした。
「同様に中の実験機も外見と違って大したもんばっかだから、お前ら、キリキリ頑張ってくれよー」
中は、ペンションやホテルとは違い、本当にただの宿泊の為だけの施設だった。
よく言えば、こざっぱり。
悪く言えば、必要最低限のものしかない。
玄関入ってすぐの、高校の集中下足室と大差ない靴箱に四人は靴を入れると
「部屋に荷物置いたら、すぐに実験室集合だ!」
と家永が言った。
「必死だな」
門脇が言うと
「遊びに来たんじゃない」
と、家永。
それを聞いて、
「え? 『海に遊びに行く。タダで泊まれる』と門脇は言ってたのに……?」
戸惑う菊池は、相変わらず門脇に騙されての参加のようだった。
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