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建物の1階は、風呂や食堂、多目的ホール、その奥には家永達理化学研究を行う者たちの為の実験機器が詰まった部屋がある。2階は雑魚寝すれば20人くらい泊まれる大部屋が2部屋、2人用の部屋が5部屋並ぶ宿泊フロアになっていた。3階には大きなミーティングルームとバルコニーがある。1階の渡り廊下より体育館に続く。屋外にテニスコート、玄関に続く芝生の広場が繋がっている。
「一人一部屋なのか……」
部屋割りを聞いて知己が
「贅沢すぎないか?」
学生時代、大部屋で寝泊まりしかしたことない記憶がよみがえって言った。
二人部屋は教官用の部屋だと覚えている。
家永が出した部屋割りは、二人部屋を4つ使うことになっていた。
二人部屋を一人で使う贅沢に、ちょっとどころでなく腰が引ける。
「どーせ、他には誰もいないからガラ空きだし。いいんじゃね?」
門脇が軽く賛同する。そんな門脇を睨んで
「本当は、二人部屋を二つ使う予定だったんだ」
家永が忌々し気に言った。
「三時間おきの実験も予定してたし、寝過ごしたら大変だ。同室にしておけばお互いが起こし合えるし、ミス防げる。だのに、門脇君が」
最後の「門脇君が」にかぶせて、門脇は
「家永先生が提案する部屋割りがおかしいんだから、仕方ない」
とバッサリ切り捨てた。
「人間関係を考えた結果だ。合理的」
と家永が言うと
「下心見え見え」
鼻で笑って門脇が言い返す。
どうやらこの実験合宿の前に、家永と門脇で粗方話し合っていたそうだ。
「先生と家永先生が同じ部屋で、俺と菊池が同じ部屋だった」
「何もおかしくないじゃないか」
学生時代の合宿でも大部屋に家永と寝ているし、それ以外にも数えられないほど家永の下宿に泊った経験がある。家永ではなく、知己が素直な感想を言うと
「はあ? 狼の部屋に先生を寝せられるかよ。んなことしたら、後でおっさんが激オコだぞ。いいのかよ」
「……門脇は将之にチクる気だったのか?」
「家永先生と寝たかったのか?」
「そういう意味じゃない」
と言うと知己は急に意識して、家永から一歩だけ離れた。
(ちょっと懐かしいなって思っただけだ)
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