慶秀大学海浜研究所 3

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「はぁー、学習しねえな。黙っててもあのおっさんのことだぞ。ありとあらゆる姑息な手段使って、洗いざらい調べるに決まってんだろ?」 (『姑息』前提なのか……)  知己が苦笑いを浮かべた。    とはいえ、門脇も都合よく将之のことを持ち出しているだけだ。 「だから、ここは『俺と先生。家永先生と菊池』案を提出した」  それこそ下心丸出し案を提出。  知己が返答に困っていると 「全く改善してない案だったので、却下した」  すっかり門脇の指導教官の立場になっている家永が代わりに答えた。  知己は以前、東陽高校時代に教職員の間で「門脇係」と言われていた。今では家永がその役を担っているかのようだ。一年かけて門脇の性格を把握し、人間関係を構築したのであろうと思われる家永の、門脇に対する適当なあしらい。  知己は (家永に「門脇係」を無事に譲れて良かった……)  と、なんともハレバレとした気持ちになっていた。 「残る組み合わせは、『平野と菊池君。俺と門脇君』になったわけだが」  知己が菊池の顔を無言で見ると、菊池も知己を見ていた。  微妙な空気が流れる。 「それって萌えも楽しみもない、あまりにも健全なカップリングだ」 「いや。何言ってんの? 門脇」  さすがに菊池が突っ込む。 「下手したら、先生の毒牙に菊池がかかるかもしれない」 「そんなことしねー」 「そんなことされねー」  今度は知己と菊池が一緒になって否定した。 「それはそれで、菊池が可哀そうだ」  と門脇がしんみりと言ったので 「そっか。俺、可哀そうだったのか……」  今更、菊池が溜息を吐いた。 「そうだよな。夏休みだっていうのに、女子の『じょ』の字もないこの合宿に謎の参加。俺、可哀そうだよな」 「嘆くな、菊池。女装したら綺麗な知己先生が居るだろ?」  門脇が励ますと 「門脇。って言っている時点で、萎えだよ」  と菊池が答え、 「なんか失礼だな、お前ら」  と知己は憤った。 「と、いうことで……最終的に部屋も余ってんだし、二人部屋を個人で使おうということになった」 「最終日の掃除が大変そうだ」  合宿のルールで、使った場所は掃除をして帰ることになっている。  施設のコンクリートむき出しの無機質な壁には「来た時よりも美しく」の張り紙が有った。 「それでも一週間、平穏無事に済ませるにはこれが一番だろう」  と家永が言うのだった。
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