慶秀大学海浜研究所 3

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「食事とかは、どうなっているの?」  菊池の素朴な疑問が飛び出した。 「食堂のおばちゃんも盆休みだから、俺達が交代で作る」  家永が答えると 「まじか、ヤリっ!」  なぜか門脇が喜んでいた。 「?」  絶対にまた文句を言うだろうと思っていた相手なだけに、家永がびっくりしていると、 「それって知己先生の手料理が食べられるってことだろ?」  と門脇が確認した。 「それはない」  家永が否定すると 「なんでだよ?」  門脇が口を尖らす。 「命と食材が惜しいからだ。平野は食事当番から外す」  家永が淡々と答えた。 (家永ってこういう所、本ッ当にシビアなんだよな)  科学者らしい、余計な感情の入らない現実を見つめた一言だった。 「はあ?」  今度は門脇が驚く。 「なんでだよ。せっかくの先生とのお泊りなのに!」  ちょっと言い方が可愛いのは、気のせいだろうか。 「お前、平野のこと好きなくせにそんなことも知らないのか?」  売り言葉に買い言葉。挑発的に家永に言われて 「知ってる! 先生は料理巧いんだ!」  門脇は強気に言い返した。 「は?」  家永は耳を疑った。家永の知る限り、未だかつてそんなことを言った人類は居なかった。  家永が北京原人でも見るような目で見ていると、門脇は 「先生が作った味付け玉子、絶品だったなー」  勝ち誇ったように言うのだった。 「はあ?」  家永は怪訝な顔して知己を見ると、知己は困ったように目を反らした。 (平野……? 何、しでかしたんだ?) 「……思えばあれからだ。文字通り、俺は胃袋を掴まれた」  幸せそうに言う門脇に 「門脇君は味覚音痴か? 炭化したたんぱく質は発がん性物質だぞ」  家永が言うと、菊池が 「いや。門脇はあれで舌が肥えている。グラム1万円の牛肉と980円の肉の違いが分かる男です」  なんかのTV番組みたいなことを言っている。 「じゃあ、なんで平野の作った飯がうまいと?」  理解不能で家永が混乱し始め、やむを得ず知己は 「あの、家永……それ、実は将之が作ったやつで門脇が勘違いして……」  ひどくきまり悪そうに説明をした。 「替え玉受験か」 「家永。言い方……」  知己が眉毛を下げて言う。 「門脇。俺達、修学旅行一緒に行ったからお泊りは初めてでもねーぞ」  と、どうでもいいツッコミを菊池がする。 「あんなん、お泊りのうちに入るかよ。パンイチで抱き合って寝たけど、さ」 「門脇、言い方ーっ!」  と叫ぶと、知己は真っ赤になって家永の手から部屋の鍵をもぎ取って中に駆けこんだ。
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