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「根を詰めれば、一週間かからない。3日で終わるから、みんなガンバロウなー!」
「……根、詰めたくねえなぁ」
と知己が言うと門脇も無言で頷いた。
「ん? 3日で終わるんなら、その方がいいんじゃない?」
菊池が聞いた。
「そうだけど、家永が根を詰めるっていうことは『ミスするな』ってことだ」
知己が答えた。
「失敗するとどうなるんだ?」
門脇が再び質問した。
「そのための一週間貸し切りだ。残りの日数で同じことを最初からする」
「うげー」
こんな時の家永は、鬼教官だ。
学生時代にも何度か知己は遭遇したことがある。同時進行の綱渡りのような実験計画は、一つがこけたら他のもコケる。だけど、そんな危うい計画でないと立証できない理論を今、書いているのだ。
この無茶な実験合宿がその証拠だ。
(……逆らわないに限る)
と知己は思った。門脇も同じ思いだ。
ここ数カ月の間に、研究室に入りびたったおかげで家永の根を詰めた実験とやらを知っている。分単位のスケジュール実験を味わったこともある。
真面目な家永は、実験に対してそれはそれは真剣に向かうのだ。
(だから、研究職向きなんだよな)
と知己は改めて思った。
「空き時間に遊んでいいから、時間になったら戻ってくれ」
一見、さも譲歩しているかのような言葉の裏に
「だから時間を絶対に守れ。実験の失敗は許さん」
という強い信念を感じられる。それで、門脇は
「はーい。頑張ります」
ふざけているようで、門脇にしては至極素直な返事をした。
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