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「門脇君は、痒い所に手が届くようなことしてなかったか?」
「……確かに」
知能犯でセクハラまがいのことをされた記憶ばかりが鮮明に残っている。
だが、放課後の理科室でせっせせっせと真面目に知己を手伝ってくれたのも確かだ。知己のミスにも気付き、そっと訂正してくれていた。ついでにいうなら、進学校の東陽高校では珍しく荒れた学年担任になった知己を、陰ながら門脇は腕力で制していたのも知っている。
「家永……。お前、俺よりも『門脇係』に向いているな」
知己は全力で褒めたつもりだったが、家永には
「なんだ、それは? 褒めてないな」
と、めちゃくちゃ怪訝な顔をされた。
一通り、シャーレを戻して間違いないかを確認し、実験機器の重いドアを閉めた。温度、湿度を一定に保つ値段のお高い特別なマシンだそうだ。大学本館には、同じタイプの初号機が入っているが、最新型は後でできたこちらに置いている。家永は最新マシンで実験したかったそうだ。
「よし、これで3時間は空く」
独り言のように言う家永に
「そうか」
知己は任された別の実験を進めながら、相槌を打った。
家永は今までのデータを打ち込むのかと思っていたら、PCのあるデスクに向かわずに、知己の方にやって来た。
知己の実験の様子でも見にきたのかと思っていたら、傍の回転いすにどっかと腰を下ろした。
「さて、菊池君と門脇君が居ない今、平野に聞きたいことがある」
「なんだ? 改まって」
家永に真面目な顔されたので、知己は何事かと思った。
「修学旅行の夜に、お前はパンイチで門脇君と抱き合ったそうだが」
「……っ!?」
忘れた頃にやってきた質問に、知己が一瞬呼吸をするのを忘れた。
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