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俊也が章の言った意味を解する前に、下足室に着いた。
この時間まで残っている部活生のほとんどは部室から帰る。下足室から帰るのは、文化部の連中だけだが、とかく八旗高校は文化部所属は少なかった。今日は皆無といっていい。章達が訪れた時は、誰も居なかった。
「章。俊也。今、理科室からの帰り?」
管理棟に繋がる階段から下足室に降りてきたばかりの男子が声をかけた。
「あ、敦」
「敦ちゃん! そう。理科室の帰り。敦ちゃんは図書室からの帰りかな?」
章が弾んだ声で訊いた。管理棟1階に事務室、2階に職員室、3階に図書室があり、4階は文化部の部室が並んでいた。
「うん」
「じゃ、一緒に帰ろ?」
「うん、帰ろ」
誘われて、敦が嬉しそうに微笑んだ。
三人は連れ立って駅まで歩いた。高校最寄り駅まで約15分。
「今まで図書室かー。敦ちゃんは勉強好きだね」
「別に。中間対策してるだけ。それに、ほら、俺、休みがちだからテストくらいいい点取らないと、やばいから」
「げー、テストぉ? もう、そんな時期か」
俊也が少しばかり青ざめる。
「二人が理科室にばっかり行って遊んでくれないから、俺のすることは勉強しかない」
嫌味だったのだろうか。不貞腐れたように敦は言った。
「敦ちゃんも理科室に来ればいいのに」
仲間外れにしたつもりはない章が、心外そうに言う。
「やだよ。理科室には担任が居るじゃないか。朝と帰りに会うだけで十分。俺は行かない」
「その担任が面白いのに」
うふふと口元に手を当てて笑う仕草は、何かをたくらむ美少年風。いや、どちらかと言うといたずらな美少女風の仕草だったが、違和感ないのが恐ろしい。
「章の趣味は悪いからな」
と敦が言えば
「俺もそう思う」
俊也も頷いた。
「二人共、ひどいなー」
と言いつつも、章は微塵もそうは思っていなさそうだ。
「明日から、また面白くなるよー」
「面白がっているの、章だけ」
俊也が言うと、今度は敦が頷いた。
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