慶秀大学海浜研究所 4

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 固まった知己を、気にせず家永は続けた。 「何をどうしたらそんな夜を過ごすことになるんだ? 我がまま坊ちゃんだけでは飽き足らず、教え子に手を出すとは情けない」 (坊ちゃんで足りないのなら、門脇君ではなく俺にしろ)  と言いかけた言葉を飲み込み、家永がスクエアタイプノンフレーム眼鏡の鼻パッド部分をくいっと押してかけ直した。 (親友のポジションでいいと思っていたが、意外にもな)  余計なことを言って、知己が帰ってしまったら芋づる式に門脇も帰るだろうし、門脇が帰れば菊池も帰る。  それは困る。  今の優先順位は、知己(より)実験。  家永は、したたかに分別のある大人でいようと思い、怒りを鎮めてクレバーに徹することに決めた。 「……言っとくけど、変な意味でしたんじゃないぞ」 「じゃあ、どういう意味でしたんだ?」  家永は感情滲ませずに訊くと、知己が実験の手を停めて家永の方を向く。  そして、門脇達との修学旅行のことを思い出して語り始めた。 「修学旅行のスキーで初心者の門脇が暴走。それをとめたら、二人で転んで雪まみれになったんだ。転んだ時に門脇が足を痛めて、ついでに運悪く吹雪いてきて、ホテルに帰れなくなった。なんとか近くの炭焼き小屋までたどり着いて、仕方なくそこで一泊したんだ。炭焼き小屋には、たまたま布団が一式だけあったんで一緒に寝るしかなかった。それだけだ」  説明下手な知己にしては上出来だ。  意味は分かる。  言っている意味は分かるが 「パンイチになる意味が分からないな」  パンツに拘る家永だった。  椅子に深く座り直し、片手に顔を預けて考えるポーズはかの彫刻に似ていた。 (態度は至って真剣なのに、聞くことはそれか)  知己は少しおかしく思った。 「雪まみれになったんだ。雪が解けて、ウェアがびしょびしょになった。それで脱いで乾かしたんだ」 「低体温症を防ぐためにか」 「そう」 「………………………………………………………………賢明な判断だ」  家永の返答に間があったのは気になったが、分かってもらえて知己はほっとした。 「おぅい、先生達!」  ノックと同時に門脇がドアを開けた。 「昼飯できたぞー! なんだ? 二人共。変な顔をして」  門脇が昼食に呼びにきた。 「「……お前の所為だ」」  高校時代の教師と大学の現教官から同時に言われ、 「俺、まだ何もしてねーよ」  と冷汗流しながら答える門脇だった。
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