慶秀大学海浜研究所 4+α

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慶秀大学海浜研究所 4+α

 21時を回った頃だった。  実験室では、寝る前の最後の仕込みをせんと家永と門脇、そして知己が詰めていた。  菊池は「どーせ、俺は役に立ちませんから」と居るだけ邪魔、実験室が狭くなる、どっか行けという門脇の圧を感じ取って、先に風呂に入りに行った。  ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪  「ん? 誰の携帯だ?」 「あ、すまん。俺」  時計を見て、「もう、そんな時間か」とテーブルに置いてたバッグから携帯を知己が取り出す。  電話を「通話」にしながら、門脇達の視線を気にしてそのままそそくさと廊下に出て行った。  平静を装った素振りに何かを感じ、仕込みの手を止めて門脇が 「……怪しい」  と呟いた。 「ちょっと知己先生を見てくる」 「……っ……」  眉間にしわを寄せ、家永が「野暮なことはやめろ」とでも言いたそうだが、門脇をとめることはなかった。  例の今回論文のメインになる実験・21時担当が家永だ。  そのため、そのデータを取るのに手が離せないでいる。  じゃんけんで決めた担当では0時は知己、3時は門脇だ。担当が決まった時には、門脇が自分の出したチョキを見つめて「ぐぉぉぉぉ!」と深夜丑三つ時担当大当たりに低く唸っていた。 (家永先生も結局の所、知己先生を諦めきれてないと思うんだよな。でないと俺のこんな出歯亀(のぞき)行為、絶対に許さないと思う。家永先生も、電話の内容を知りたい……と……)  思わず門脇が「ラジャ(了解)」と家永の背中に向かって小さく敬礼を送った。  そして音を立てないよう、そぅっと実験室の扉を開けた。  お目当ての知己は、実験室の前のソファだ。  そわそわと足を何度も足を組み替えながら、話している。  平静を装っておきながら、声がやや高い気がする。門脇には、弾んでいるように思えた。 「大丈夫。ちゃんと今日も食べた。なんたって、今日からお泊り実験だからな。食事当番がちゃんと作ってくれている」 「いや、俺じゃない。俺は当番から外されている」 「ママコじゃない。そう、家永の判断だ」 「いちいち、むかつくなー。そこで家永を褒めるかよ?」  察するに相手は将之だ。  知己の態度からして、この時間に毎日電話があるのだろう。 (……けっ!)  門脇は心の中で (リア充爆発しろ……いや、オッサンだけ爆発しろ!)  と念じた。
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