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「作ったのは菊池ってやつだ。
え? 覚えている? すごいな、お前。菊池にそんなに会ったことないだろう。そいつが昼飯は塩サバ焼いてくれて定食みたいにご飯とみそ汁をつけてくれた。うん。そう。男子飯というよりも、お袋の味って感じ」
「まあ、確かに。定食メニューなんて俺には絶対に作れないな。夜は、メインがハンバーグになったハンバーグ定食だった」
「手抜き? なんで?」
「あ。そっか、ご飯とみそ汁は昼に作ったものだからか」
「そ、だよな。効率的だよな。あいつ、意外にやりくりと料理の才能あると俺も思う」
「ああ?! 大抵のホモサピエンスは俺より才能ある筈だと? お前、帰ってきたら覚えていろよ」
顔と言葉が一致していない。
毒を吐きつつも、なんだ、あの笑顔は。
(しかし知己先生が、料理下手というのは本当らしいな。オッサンがひたすら飯の心配をしている)
これが固定電話なら、昭和の時代に受話器からクルクルとコードを指で絡める女子高生みたいな感じなのだろうかと門脇は思った。
「うーん、なんだかなぁ……」
あからさまに止めはしなかったものの、なかなか戻ってこない門脇に業を煮やした家永が
「門脇君……、いい加減にしとけよ」
データ取るのに忙しそうにしながらも、声をかけた。
知己に気付かれぬよう、
「そ、だな。バカップルのあほらしい会話ばっかだから、もう少ししたらそっちに戻る」
ドアを一旦閉めて返事をした。
電話が気になって、再びドアを開けると
「あ、礼ちゃん……!?」
ひときわ大きくなった知己の声が聞こえた。
「ん?」
知己の声に緊張を感じ取り、思わず、門脇は耳を澄ませた。
「そっか。今日から将之も礼ちゃんのところにお邪魔しているのか」
嬉しそうでもある。
(礼ちゃんって何者だ?)
門脇が知らない名前に怪訝な顔をする。
「家永先生、礼ちゃんって誰?」
小声で聞いたが
「誰だ? 知らん」
すげなく家永が答えた。すると
「んじゃ、もうちょっと覗く」
と門脇はドアにビタリと張りついた。
「お前……っ!」
「しっ! バレるだろ?」
逆に門脇に注意されて、家永は理不尽なため息を吐きながらくるりと向きを変え、実験に戻った。
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