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「……立ち聞きに『いいとこ』って、どんなとこなんだ?」
実験機に体を向けて、慎重にシャーレを戻す家永は、門脇に一瞥もない状態で聞いた。
「知己先生が、なんか切なさそうな可愛い顔して困っている。めちゃかわのぐうかわの激かわ。廊下に天使が居る。あそこが天国だったのか」
門脇の実況中継はふざけているようで大真面目だった。それで家永は
「そうか。写真を撮っておけ」
ぼそりと謎の指示を出した。
「はあ? 無理。角度悪くって撮れねえよ」
思っていたのと違う反応に、門脇が言うが
「嘘つけ。お前の所から見えるってことは、その角度から撮影も可能ってことだろ?」
科学的に正論でねじ伏せられた。ただ、推奨していることは盗み撮りだったが。
「………………ちっ、仕方ねえな」
同志の頼みは断りにくいのか、門脇は渋々携帯を持ち出した。
カシャ。
わずか4人しかいない海浜研究所の廊下に、その音は響いた。
その途端、
「今、何を撮ったー?!」
知己が電話を終え、即座に鬼の形相で実験室に飛び込んできた。
ドアの裏に門脇が潜んでいるとは知らずに、勢いよくドアを開けられ、反射で飛びのいた門脇は、なんとか顔をぶつけずに済んだ。
「あっぶねー!」
鼻先すれすれでドアを回避した門脇は、速攻家永を責めた。
「家永先生、シャッター音でバレちまったじゃねえか!」
「お前のいう天使って、悪鬼のような天使だな」
家永は、鼻息荒い知己達を観察しすこぶる冷静に対応していた。
ドア裏の門脇は、またもや知己に襟首を掴まれたが、
「ちょっと待て! ちょっと待てって! 落ち着け、先生! これ、言い出したのは家永先生だから!」
門脇は無実(?)を主張してみた。
「はあー?」
知己が、家永に視線を巡らし、真偽を問うと
「……知らん。俺は実験に忙しかった」
知己の剣幕に押されて、家永が適当に答えた。
「きったねー!」
襟首掴まれた状態で門脇が叫んだ。
「あー! さては覗きをやめさせようとして……、写真はわざとか!?」
「覗……っ?!」
突然の犯罪っぽい言葉に知己が声を詰まらせた。
「しまった。自爆しちまった」
家永の巧妙な策にハマって、門脇はつるつると自供の道をたどっていた。
もはや、のっぴきならない状況だ。
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