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「仕方ないヤツだな」
と知己が言うと
「俺の単独犯じゃねー」
門脇がしつこく言っていたが
「いや、門脇君の単独犯だ」
すべてを片付け終わった家永が、言い逃れの逃げ道を塞いだ。
コーヒーサーバーからコーヒーを入れて、知己に「まあ落ち着け」と言いたげに差し出した。
知己は「ん」と短く返事して、近くのパイプ椅子に座る。自分の分も入れた後に
「門脇君も飲むか?」
と聞いた。門脇は3時の実験がある。
「俺はいい」
この後仮眠を取るつもりだったので、コーヒーを断った。
家永も椅子を出して、一仕事終えた解放感でどっかりと腰を下ろしたので、二人に倣ってなんとなく門脇も椅子に座った。
「で? どっから聞いてたんだ?」
コーヒーを飲んで少し落ち着き、本格的に尋問の体勢に入った知己が訊く。すると、門脇は素直に
「ちゃんと飯食ってるとか、菊池はやりくり上手とかの辺りかな?」
と答えた。
「ほぼ全部じゃねーか」
呆れる知己に
「なあ、先生」
門脇が真剣な顔で声をかけた。
「……なんだ?」
「礼ちゃんって誰?」
門脇がダイレクトに聞いた。
「お前が知らなくていい」
すげなく知己が答える。
「電話の相手、オッサンだろ?」
「……お前が知らなくていい」
(あんなにデレデレしていたくせに、よく言うよ)
門脇に意地悪な気持ちが芽生える。
「じゃ、これだけは教えて」
「何だ?」
「卿子さんて、誰?」
思わぬ人物の名前が出て、知己は飲んでたコーヒーを勢いよく、ぶほぉっと吹き出した。ついでに、家永もなぜか咽ている。
「オッサンと今、一緒にアメリカに居るのって『卿子さん』?」
「お、……お前が知らなくて……いい……。いや、待て。どうしてその名を?!」
そこで、けほけほと咽る家永が目に入った。
「家永ーっ!」
「すまん。ふと、聞き間違いかと思って門脇君に尋ねてしまった」
「門脇に余計なことを吹き込むな!」
「な? 主犯は家永先生だっただろ?」
「俺は覗きは、していないがな」
「全く。将之と卿子さんが一緒にアメリカだなんて、想像しただけで最悪だ」
思わず恐ろしい想像をして、知己は震え上がった。
「……やっぱり。電話の相手はオッサンだったか」
門脇が深く頷く。
「あ……」
こうして全員が自爆してしまった実験室に、風呂上がりでご機嫌な菊池が
「風呂、空いたぜー。次の人、どぞー」
と、空気を読まずにのほほんとやってくるのだった。
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