慶秀大学海浜研究所 4+α

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「仕方ないヤツだな」  と知己が言うと 「俺の単独犯じゃねー」  門脇がしつこく言っていたが 「いや、門脇君の単独犯だ」  すべてを片付け終わった家永が、言い逃れの逃げ道を塞いだ。  コーヒーサーバーからコーヒーを入れて、知己に「まあ落ち着け」と言いたげに差し出した。  知己は「ん」と短く返事して、近くのパイプ椅子に座る。自分の分も入れた後に 「門脇君も飲むか?」  と聞いた。門脇は3時の実験がある。 「俺はいい」  この後仮眠を取るつもりだったので、コーヒーを断った。  家永も椅子を出して、一仕事終えた解放感でどっかりと腰を下ろしたので、二人に倣ってなんとなく門脇も椅子に座った。 「で? どっから聞いてたんだ?」  コーヒーを飲んで少し落ち着き、本格的に尋問の体勢に入った知己が訊く。すると、門脇は素直に 「ちゃんと飯食ってるとか、菊池はやりくり上手とかの辺りかな?」  と答えた。 「ほぼ全部じゃねーか」  呆れる知己に 「なあ、先生」  門脇が真剣な顔で声をかけた。 「……なんだ?」 「礼ちゃんって誰?」  門脇がダイレクトに聞いた。 「お前が知らなくていい」  すげなく知己が答える。 「電話の相手、オッサンだろ?」 「……お前が知らなくていい」 (あんなにデレデレしていたくせに、よく言うよ)  門脇に意地悪な気持ちが芽生える。 「じゃ、これだけは教えて」 「何だ?」 「卿子さんて、誰?」  思わぬ人物の名前が出て、知己は飲んでたコーヒーを勢いよく、ぶほぉっと吹き出した。ついでに、家永もなぜか咽ている。 「オッサンと今、一緒にアメリカに居るのって『卿子さん』?」 「お、……お前が知らなくて……いい……。いや、待て。どうしてその名を?!」  そこで、けほけほと咽る家永が目に入った。 「家永ーっ!」 「すまん。ふと、聞き間違いかと思って門脇君に尋ねてしまった」 「門脇に余計なことを吹き込むな!」 「な? 主犯は家永先生だっただろ?」 「俺はは、していないがな」 「全く。将之と卿子さんが一緒にアメリカだなんて、想像しただけで最悪だ」  思わず恐ろしい想像をして、知己は震え上がった。 「……やっぱり。電話の相手はオッサンだったか」  門脇が深く頷く。 「あ……」  こうして全員が自爆してしまった実験室に、風呂上がりでご機嫌な菊池が 「風呂、空いたぜー。次の人、どぞー」  と、空気を読まずにのほほんとやってくるのだった。
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