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慶秀大学海浜研究所 5
将之曰く「やりくり上手」の菊池が、メインに食事を作ってくれるようになったので、門脇達はますます実験に専念できた。
菊池は元々文系所属。今回の実験に関しては器具の名前さえも分からないのだから、何か手伝ってもらう時には器具の形状から説明しなくちゃいけない。だったら自分で取った方がいい。……の全く役に立たない状況だった。
それが、にわかに活躍の場を得て、菊池は俄然張り切った。
実験室のサーバーをちょいちょいチェックしては
「コーヒー、補充しておきますねー」
と勝手に作り足し、常に切れないようにしてくれている。
「暑いだろ? コーヒーばかりじゃ何だし……」
とわざわざ麦茶を作って、冷蔵庫に常備し始めた。食事の時に出すのはもちろん、氷を入れてたまに実験室に運んできてくれる。
実験に関係なく時間に縛られない菊池はよほど暇だったのか、近所のスーパーまでファミリー用ボックスアイスを買いに行った。施設の大型冷蔵庫がスカスカだったのをいいことに、バニラ、チョコ、苺の3箱をストックし「おやつですー」とほぼ実験室に缶詰状態の三人に差し入れし始めた。盛り付けられた器には、施設の裏の空き地に10年前、家永が「どの草が一番タフだろうか?」と面白がって植えた紫蘇、ドクダミと一緒にせめぎ合って生えているミントの葉も付いていた。
草の仁義なき勢力争いの結果、どれもちゃっかり生き残り、空き地を我が物顔で占めている。知己が学生時代に、食堂のおばちゃんが食事に入れたりお茶にしたりと重宝している噂も聞いたことがあった。その子孫がまだまだ繁栄しているようだ。機械警備の為、大学側はそんな風に空地を利用されているとは、全く知らない。知った所で家永にお咎めはないだろう。草刈りの手間が省けて、むしろ喜ばれると思われた。
「じゃあ、後で食器取りに来るなー」
と盆を持ちながら菊池は実験室から消えた。
このお泊り実験での生き甲斐を見つけた菊池は、夕飯の仕込みに入るのだろうと思われた。
甲斐甲斐しく働く菊池に
「菊池……、いいお婿さんになりそうだな」
思わず知己が感想をもらした。
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