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そんな感じで二日目の18時の実験が終わった。
実験室を空にしたくないという理由で家永が先に食事をとってさっさと実験室に戻った。
その後に知己達がゆっくり夕飯を終えた頃だった。
「先生、海に行こうぜ」
と門脇が言い出した。
「無理だな。家永一人を実験室に残して行くなんて薄情だぞ、門脇」
「違う。俺は家永先生に絶大の信頼を寄せているんだ。任せて安心。家永先生に失敗の文字はない」
「ものは言いようだな」
「あ、家永」
タイミング良くだか悪くだか分からないが、ちょうど食堂に家永が現れた。
「菊池君。アイスをくれ」
どうやら食後に甘いものが欲しくなったらしく、戻ってきたらしい。
(頭使うと、糖分欲しくなるもんな)
知己が見ていると、家永はまっすぐ菊池の所に向かった。
「何味にします?」
「全部を少しずつ盛ってくれ」
「はい、喜んでー!」
居酒屋のノリで菊池は答えた。
「ミントも乗せますか? 昼間にいっぱい摘んだんでそこに挿してます」
食堂のテーブルには、ガラスコップにミントが挿してあった。
(なんか菊池の女子力、上がってないか……?)
と知己が思っていると
「お前ら……すくすくと成長し、役に立つ日が来て良かったな」
ぼそりと10年前に種を撒いた張本人がミントに向かって呟くように話しかけた。
それなりに愛着もあるのだろう。実験で撒いた三種のうちドクダミは茶に、紫蘇は料理やジュースに使われていたが、ミントはほとんど使われることがなかった。
「さっきの話だが、ちょっとなら行ってもいいぞ」
菊池からアイスを貰い、自分でガラスコップから抜いてミントを添えながら家永が言った。
「次の実験は21時。俺の担当だし、その他の実験も仕込み終わっているし。することは特にない」
「やったー! 家永先生、話、分かる!」
門脇がテーブルから身を乗り出して、喜んだ。
「でも……」
その後を言う気にはなれなくて、知己がモソモソとしりすぼみに口ごもった。
(……21時には将之が電話をかけてくる)
出張中も、ずっとかけてきてた。
昨日からどうやら休暇に入ったらしい。礼の家からだけど、かけてきた。きっと今夜も定時連絡を入れるだろう。
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