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学生時代から平野と共にここに来て、教官たちのお泊り実験に付き合わされていた。
だから、だろうか。
色々と思い出す。
実験の合間に順番に海に行き、風呂に入り、みんなで大部屋に雑魚寝した。
既に炭素の錬金術師と言われていた知己に食事当番をさせずに、知己がむくれていたが、みんなが「よく阻止した」と褒めた。
先輩達が労いの意味で合宿に酒を差し入れてくれた時もあった。知己は飲むと誰彼構わずベタベタと甘えだすのを家永は知っていたので、全力でそれも阻止した。
風呂上がりに「汗が引かない」と脱衣所の扇風機の前で、バスタオル片手に全裸で陣取る知己に「早く服を着ろ」と叱ったこともある。
(……なんか、俺。平野をとめてばっかだな)
知己は、信頼置ける家永の傍に何かにつけて居たので、とめやすかったのもある。
だが合宿で常に一緒に居る分、家永の心に暗い影も落としていった。
友人らが体育館でバレーしよう、外でテニスしよう、海に行こうと誘う中、出不精の知己の手を引いて参加したのは家永だ。他の誰にもそんなことはさせなかったし、できなかった。その優越感があった。
大部屋での雑魚寝では、一番壁側に知己を、その隣に家永が陣取った。誰も知己の傍に寄せ付けない家永の作戦だった。寝相悪いふりをして知己に触れ、抱きしめたこともある。
(結局、それで我慢しちまうのが俺の器のちっせえとこだよな)
今もそうだ。
ホワイトボードの文字さえ消せない。
(告白しておけばよかったな。平野の隣には女性がいいと思い込んでいた過去の自分に腹が立つ)
だけど、知己の寄せる絶大な信頼と友情を裏切る気にはとてもなれなかった。
(あ、なんか……あの傲慢な坊ちゃんに腹が立ってきた)
しかし、今となっては仕方ない。
(こんなこと考えても仕方ない。気分転換にコーヒーでも入れよう。ついでに何か摘まもうか……いや、食いすぎだな。さっきもアイスを食べたし。平野たちが何か買ってきてくれるから、それまで我慢しよう)
と思い、コーヒー用に水を汲みに食堂に出た時だった。
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