慶秀大学海浜研究所 6

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慶秀大学海浜研究所 6

 それは4日目の朝、6時のことだった。 「終わった……」  家永が安堵の息を吐いたが、その言葉を聞いた 「何か、やらかしたか?!」  勘違いした知己が青ざめて訊き返した。  今回のお泊り実験のメインが失敗したら、残りの日にちを使って、また同じ実験を繰り返さなければならない。  3時間ごとの、気の抜けないメンタル削られる実験を。 「違う、違う。俺の欲しかったデータが揃ったってこと」 「あ、実験が『終わった』……の意味だったのか。紛らわしいな」  実験が失敗したのかと思った知己は、安心してへなへなと脱力した。 「3時間起きのデータ、辛かったなー……」  と、立てかけてあった折り畳みパイプ椅子を出して座る。 「一人でしたら、もっと辛かった筈。それもこれも平野のおかげだ。ありがとう」 「ん。……いや、門脇と菊池のおかげだろ」  今回の実験、知己が三分の1を担ったとはいえ、門脇と菊池の若さ溢れるパワーに助かったと正直思う。  じゃんけんで決めたとはいえ深夜の実験は、門脇が一人で行った。学生ながらも家永に張り合えるほどの繊細さで、実験を行い、何のトラブルも起こさずに終えることができた。 (あいつ、意外に手先器用だったな。細かい所にも気が付くし)  と知己は実験計画のホワイトボードを見上げる。  門脇が事細かに気付いたところを書き込み、家永がそれに訂正・修正を加えていた。 (意外に、家永の研究室が合うかもな)  研究の意味でもあったが、門脇の好戦的で大人嫌いな性格を知り、適度に相手する家永とは教官としての相性もいいと思う。他の教官なら、きっとこんなにうまく門脇が応じることなどできない。  菊池に至っては、食事全般の世話をしてくれた。そのおかげで、三人は憂うことも飢えることもなく、実験に集中できた。 「いや。二人が来る条件が、お前だったし」  謙遜して門脇たちを褒める知己の気持ちを汲んで、家永が言った。  そして、 「残る実験は……」  とホワイトボードをひっくり返し、裏のまっさらな面を出した。 「ふえぇ? 終わりじゃないのか?」  びっくりして知己が情けない声を出した。 「せっかく順調に終わったんだ。残りの日にちも有効利用しなくっちゃ。せっかくだから、できる実験を全部やっておこう」  家永がメモを片手に、新たな実験を書き上げだした。 「……歴代教官の中でお前が一番の鬼スケジュール組む先生だ」  知己が言うと 「計画性があると言え」  家永は平然として答えた。
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