242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
慶秀大学海浜研究所 6
それは4日目の朝、6時のことだった。
「終わった……」
家永が安堵の息を吐いたが、その言葉を聞いた
「何か、やらかしたか?!」
勘違いした知己が青ざめて訊き返した。
今回のお泊り実験のメインが失敗したら、残りの日にちを使って、また同じ実験を繰り返さなければならない。
3時間ごとの、気の抜けないメンタル削られる実験を。
「違う、違う。俺の欲しかったデータが揃ったってこと」
「あ、実験が『終わった』……の意味だったのか。紛らわしいな」
実験が失敗したのかと思った知己は、安心してへなへなと脱力した。
「3時間起きのデータ、辛かったなー……」
と、立てかけてあった折り畳みパイプ椅子を出して座る。
「一人でしたら、もっと辛かった筈。それもこれも平野のおかげだ。ありがとう」
「ん。……いや、門脇と菊池のおかげだろ」
今回の実験、知己が三分の1を担ったとはいえ、門脇と菊池の若さ溢れるパワーに助かったと正直思う。
じゃんけんで決めたとはいえ深夜の実験は、門脇が一人で行った。学生ながらも家永に張り合えるほどの繊細さで、実験を行い、何のトラブルも起こさずに終えることができた。
(あいつ、意外に手先器用だったな。細かい所にも気が付くし)
と知己は実験計画のホワイトボードを見上げる。
門脇が事細かに気付いたところを書き込み、家永がそれに訂正・修正を加えていた。
(意外に、家永の研究室が合うかもな)
研究の意味でもあったが、門脇の好戦的で大人嫌いな性格を知り、適度に相手する家永とは教官としての相性もいいと思う。他の教官なら、きっとこんなにうまく門脇が応じることなどできない。
菊池に至っては、食事全般の世話をしてくれた。そのおかげで、三人は憂うことも飢えることもなく、実験に集中できた。
「いや。二人が来る条件が、お前だったし」
謙遜して門脇たちを褒める知己の気持ちを汲んで、家永が言った。
そして、
「残る実験は……」
とホワイトボードをひっくり返し、裏のまっさらな面を出した。
「ふえぇ? 終わりじゃないのか?」
びっくりして知己が情けない声を出した。
「せっかく順調に終わったんだ。残りの日にちも有効利用しなくっちゃ。せっかくだから、できる実験を全部やっておこう」
家永がメモを片手に、新たな実験を書き上げだした。
「……歴代教官の中でお前が一番の鬼スケジュール組む先生だ」
知己が言うと
「計画性があると言え」
家永は平然として答えた。
最初のコメントを投稿しよう!