慶秀大学海浜研究所 6

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(めちゃくちゃここの機材使いたいって言ってたもんなぁ)  一人で行くのも辞さないと言っていたのを思い出した。  と、なると、こんなに没頭するのだ。下手したら、寝食忘れて取り組んだだろう。つくづく一人で来させなくて良かった。 (後、数日。付き合うしかないな)  と、知己は実験室の片隅に置いてあるサーバーにコーヒーを取りに立ちあがった。  今朝作ったコーヒーがまだ余っている。知己が家永の分と二杯のコーヒーを入れて戻るとホワイトボードは7割ほど家永の文字で埋められていた。 「うぇ。まだ、そんなにあるのか」  あきれ顔で家永にコーヒーを渡した。 「ん……」  受け取ると家永は、知己とコーヒー入れた紙コップをチョンと合わせた。  ささやかな実験終了の祝杯だった。 「単発的で、簡単なのばっかだ。メインの実験の検証と対象。裏付けいっぱいあった方がいいだろ。論文に使うかどうかは置いといて、書く材料はあるにこしたことはない。後、ついでにこの機会にできるのは、やっとく」  メモを見ながら、確認している。  多分、本当はまだあるのだろうが、優先順位と残りの日にちを考えてできそうなものだけをピックアップしているように思えた。 「大学でやれよ」 「ここでできないのはそうする」  計画的だかなんだか知らないが、大体、家永のこの計画に自分の体調や体力の限界は入っていない。だから、詰め込み過ぎて体を壊すのだ。 「なんだ? 帰りたいのか? 坊ちゃんはまだアメリカだろう?」 「……そうじゃなく」  知己は口ごもった。 「せっかくここの実験機器貸してもらえるのに、とことん使い倒す」 「はー……」 「河童の知ちゃんは、海に行きたいのか」 「まあ、そんな所」  少しでいいから、家永を外に連れ出したかった。 「……そうだな」  家永は、知己がここに来て、学生の頃と変わらないとやたら懐かしがっているのは分かっていた。  だけど、あれ以来菊池が夜の海を怖がって行けていない。 「昼間に海に行ったらいいじゃないか」 「いいのか?」 「そんなに何時間も遊ばないだろ? それに今、書き上げた実験は全部終わらなかったら別に本館帰ってからでもいいし」 「いいのか?」 「欲を言えば、全部終わらせたい」 「どっちなんだよ」 「門脇君も随分我慢しているみたいだから、昼間に海に行ってくるのは構わないって言ってんだ」 「家永は行かないのか?」 「来てほしいのか?」  妙な間があった。
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