慶秀大学海浜研究所 6

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「いや。来てほしいとか、そんなんじゃなくって。お前もたまには日に当たれって言ってんだ。だって不健康だろ?」  なんか会話がおかしいと感じた知己は、修正に入った。 「あー、一日15分の日光浴(※)の話か? ちゃんと実験の合間に15分だけ外に出ているぞ。健康管理には気を使っているんだ。菊池君の飯は美味いが、若い所為か、栄養的にはタンパク質多め。ビタミン類はやや足りなさそうだが……まあ、一週間やそこいらで死にやしないよ」  菊池の食事は野菜少な目の肉がっつり系だった。  家永の白い、ついでに言うと紫外線のダメージを一切受けてなさそうなきめの細やかな美肌を見て、知己は 「15分ぽっちじゃ……、説得力に欠ける肌色だ」  と呟いた。 「うーん……」  言いたいことはうまく伝わらないものだなと、知己が考えていたら、そこに門脇が 「先生達、朝飯ー!」  ノックもしないで、バーンとドアを開けてずかずかと実験室に入ってきた。 「うぉ、なんだ? その更新されたホワイトボードは?」  先ほど家永が書きこんだ実験計画に気付いて、目を剥く。 「ん? もしかして?」  みるみる門脇が笑顔になった。 「あの、めんどくさいメインの実験終わったのか?」  言い方はともかく、顔は喜びで満ちている。 「家永先生、おめでとー!」  と門脇はエアでクラッカーを鳴らして祝った。 「めんどくさいのに付き合わせて悪かったな」  付き合ってくれた門脇、知己への家永流の労いの言葉だったが、門脇は聞いていなかった。 「やったー! これで先生と昼の海に行けるー! 飯くったら遊びに行こうぜー!」  これも門脇流の実験終了祝いの言葉である。 「おい……、そこかよ」  分かっていてあえてツッコむ家永に 「ほら、門脇もこう言っているぞ」  と知己が一人、なおも果敢に海に誘っていた。 「いや、門脇君が言っている『先生』ってのは、お前のことだろ?」  と家永は即座に否定した。 「実験室を空けたくないしな。俺はこの新しい実験もしたいから、お前らだけで行ってこい」  とホワイトボードを顎でしゃくって見せた。 「俺が残るから」 「はあ?」 「門脇と家永で海に行ってこいよ」  御前崎美羽がこの場に居たら、憤死したかもしれない。もしくは高校時代の恩師と言えど躊躇なく知己を絞めにかかっただろう。 「……」  またもや妙な間が空いた。 (※)一日15分の日光浴・・・一日に必要なビタミンDの形成に日光が欠かせないそうで。「この年で日光当たると(シミ・ソバカスで)死んじゃう!」というと「吸血鬼じゃあるまいし。そうじゃないなら、食べ物で摂取するしかないけど大変だよ。15分だけ、日にあたって来ーい」と栄養士さんから言われました。だけど、やっぱりシミ・ソバカスは嫌です。
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