慶秀大学海浜研究所 6

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 ただ違うのは、その後に二人が同時に 「「なんで?」」  と発したことだった。 「やめてくれ、どうして門脇君と二人で」 「俺だって、嫌だ」  負けず嫌いの門脇が言い返す。 「門脇君と行くくらいなら、そこの実験計画もう少し書き込む」  家永がホワイトボードを指さす。 「はあ? それ、むちゃくちゃ腹立つ仕返しだな。これ以上実験計画を書き込むな。それ、3分の1は俺の仕事になるんだろ?」 「仕返しなどと低俗なものではない」 「低俗か高尚かは知らんが、せっかくメインの実験が済んだんだ。ここまで来て、『海には膝までしか入りませんでした』なんて嫌だ。しかも夜に」  朝ごはん前でお腹が空いているのもあるのだろう。  家永と門脇は、すっかり険悪な雰囲気になっていた。 (え? あれ? なんでこんなことに? もしかして俺の所為か?)  自分の一言で、こんな状態になるとは思わなかった知己は、二人の間で右往左往するばかりだ。 「とにかく俺は実験を進めたい!」 「奇遇だな、俺は家永先生とではなく知己先生と海に行きたい!」  二人が、自分の主張を語り合った。 「……!」  その後  ぱぁぁんっ!  と、ハイタッチ。 「?!」  知己は高速で首を左右に振って、交互に家永と門脇を見て、何事が起ったか分からずに滝のような汗をかいた。 「平野、朝飯の後に門脇と海に行ってこい」  と家永がさっきまでの勢いが消え、まるで実験の一端のように淡々と指示を出す。 「え? いつ、そうなったんだ?」  さっきのハイタッチは利害の一致を確認してのことだった。  謎の二人の意思疎通はよく分からないが、知己は分からないなりに頷いてしまった。 「……菊池は?」 「本人が行きたいようなら、連れて行ってやれ。昼の海なら怖くないだろ」  すっかり保母さんみたいになっている家永に 「やったー! 1時間したら戻ってくるから、それまで家永先生は孤独に耐えて実験しやがれー」  と門脇が言った。  嫌な言い方しかできてないが、つまり門脇は「1時間したら戻ってくる」と言いたいのだ。 (こいつら……2年も一緒にいると、変に仲良くなるもんだな……)  
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