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ただ違うのは、その後に二人が同時に
「「なんで?」」
と発したことだった。
「やめてくれ、どうして門脇君と二人で」
「俺だって、嫌だ」
負けず嫌いの門脇が言い返す。
「門脇君と行くくらいなら、そこの実験計画もう少し書き込む」
家永がホワイトボードを指さす。
「はあ? それ、むちゃくちゃ腹立つ仕返しだな。これ以上実験計画を書き込むな。それ、3分の1は俺の仕事になるんだろ?」
「仕返しなどと低俗なものではない」
「低俗か高尚かは知らんが、せっかくメインの実験が済んだんだ。ここまで来て、『海には膝までしか入りませんでした』なんて嫌だ。しかも夜に」
朝ごはん前でお腹が空いているのもあるのだろう。
家永と門脇は、すっかり険悪な雰囲気になっていた。
(え? あれ? なんでこんなことに? もしかして俺の所為か?)
自分の一言で、こんな状態になるとは思わなかった知己は、二人の間で右往左往するばかりだ。
「とにかく俺は実験を進めたい!」
「奇遇だな、俺は家永先生とではなく知己先生と海に行きたい!」
二人が、自分の主張を語り合った。
「……!」
その後
ぱぁぁんっ!
と、ハイタッチ。
「?!」
知己は高速で首を左右に振って、交互に家永と門脇を見て、何事が起ったか分からずに滝のような汗をかいた。
「平野、朝飯の後に門脇と海に行ってこい」
と家永がさっきまでの勢いが消え、まるで実験の一端のように淡々と指示を出す。
「え? いつ、そうなったんだ?」
さっきのハイタッチは利害の一致を確認してのことだった。
謎の二人の意思疎通はよく分からないが、知己は分からないなりに頷いてしまった。
「……菊池は?」
「本人が行きたいようなら、連れて行ってやれ。昼の海なら怖くないだろ」
すっかり保母さんみたいになっている家永に
「やったー! 1時間したら戻ってくるから、それまで家永先生は孤独に耐えて実験しやがれー」
と門脇が言った。
嫌な言い方しかできてないが、つまり門脇は「1時間したら戻ってくる」と言いたいのだ。
(こいつら……2年も一緒にいると、変に仲良くなるもんだな……)
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