慶秀大学海浜研究所 6

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 家永を外に連れ出すのは、また後で考えようと知己は思い、門脇に 「お前。来年の研究室選択は、家永の所にしておけよ」  と言って、菊池の待つ食堂に向かった。  門脇はその後を追いかけながら 「家永先生の所は居心地いいからそうしたいけど、家永研究室は厳しいわりに人気高いからな。俺、入れるかな?」  と言っている割にはまったく憂いを感じさせずに言った。 「研究室への選考は、個人の性格は加味されない」 「あ? どういう意味だ?」 「成績順に希望が通されるから、門脇君は間違いないだろ?」  更に、知己と門脇の後に続いて実験室を出た家永が、足早に歩いて廊下で門脇に追いつく。  多分、これも家永流の歓迎の言葉だ。  意味が分かると、珍しく門脇の顔に満面の笑顔が溢れた。  食堂につくと、菊池が待っていた。 「おっせー(遅い)な。三人共」 「すまん」  知己が謝る横で間髪入れずに門脇が 「菊池、3時間おきの実験終わったから海に行っていいって、さ」  嬉しそうに話しかけた。  今日の朝食は、目玉焼きにウィンナー、ポテトサラダが付いていた。  席に着いて、食事を始める三人に菊池は鍋からみそ汁を注いで配った。  門脇の話を聞いて、 「え?」  菊池の表情が曇った。 「飯食ったら、行こうぜ」  という門脇に 「うん……そ、だな」  以前、浮かない顔の菊池。 「なんだよ? 行きたくないのかよ」 「いや、行きたいよ。……その」 「?」 「浮き輪持って行っていいか?」  どうやら、この間の夜のことがトラウマになっているようだ。 「そりゃいいけど……昼間の海は、宇宙じゃないぞ」 「わ、分かっている」 「近藤と海デートする日の為に練習しておけよ」 「お、おぅ! 平野先生、泳ぎを教えてくれ」  菊池は『河童の知ちゃん』をご指名した。  知己よりも早く 「ダメに決まってんだろ。俺が教える」  即行門脇が阻止した。 「あいつらから目を離すなよ、平野。……保護者、頑張れよ」  と家永が言うと、知己は 「う、うん……」  温かい味噌汁を啜りながら、 (やっぱり、家永も来てくれないかな?)  と少し不安になっていた。
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