慶秀大学海浜研究所 7

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 家永の実験にとことん付き合う気で合宿に来ていたが、実験の合間に海に行けるだろうとも踏んでいた。  学生の時もそうだった。  どんなに過密スケジュールでも、交代で海に遊びに行った。  ただ、今回ほど人数の少ないお泊り実験ではなかったが。 (家永も、くじ運ないよな)  盆の時期にさえ当たらなかったら、こんなことにはならなかっただろうに……と知己は思う。  ラッシュガードの他にも、きっちり用意していたゴーグルをかけると知己はざぶざぶと海に入っていった。  気温がかなり高い所為もあり、海水の冷たさが心地いい。  途中で浮き輪拾った菊池とすれ違った。 「先生。あんまり遠くに行かないでくださいねー」  と情けない声を出す。  きっと知己不在時の門脇の行動を恐れてのことだ。   「んー。そうだな、お前らが目の届く範囲には居るようにする」  と言うと、知己はさらに沖へと進み、やがて足が付かない深さになった。  そこでゆっくりとしたクロールに切り替える。  知己に泳ぎを教えてくれたのも父方の祖父だった。  海の傍に住んでいて、中学生までの夏休みには毎年泊りに行った。  祖父は専門は農家だったが、近かったので早朝には海に出かけ新鮮な白魚やウニを取ってきて、孫達を歓迎した。  祖父が捕ってきた海鮮のおかげで、それまで生臭くて食べられなかった刺身を知己は食べられるようにもなった。 (爺ちゃんの取ってくれたウニ、めっちゃ甘くて美味かったな)  菊池のがっつり男飯もいいが、そろそろ魚介も食べたい。  門脇は家永への土産に海の家で焼きそば買って帰ろうと言っていたが、スーパーに寄ってこの海で取れた魚介もいいかもしれないなと思った。  ただ、料理をするのはもれなく菊池なのだが。  海から頭をのぞかした大きな岩を横切って、更に沖へ進んだ。  菊池たちが特訓している浜から少し離れた位置で、泳いで渡れないこともない距離だ。よくレンタルボートで遊ぶものがここを目指して漕いで渡っているのを見た。  波にさらされた岩ではあるが、なだらかな表面で人が乗って遊ぶにはちょうどいい感じの岩だった。 (刺身とかだったら、手間もかからずにいいよな)  祖父の思い出に浸りながら泳いでいたら、ずいぶんと沖に出てしまった。岩を通り越して遊泳区域限界を表すブイが見える位置まで来てしまった。 (しまった。つい、こんな所まで……。門脇と菊池が心配するかも)  と、そこからUターンをして、今度は浜を目指して泳いでいた時だった。
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