慶秀大学海浜研究所 8

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慶秀大学海浜研究所 8

 ふと唇に何かが触れた気配がして、知己は目を覚ました。 「あれ? ここは……?」  目に映ったのは埋め込まれたLEDの蛍光灯が輝く真っ白い天井。明らかに大学の実験施設とは違う。  すぐそばに自分にのしかかるように上から覗きこむ門脇が 「起きた!?」  とすこぶる嬉しそうに目を細めた。  次の瞬間には知己のベッドから降りて、部屋のドアを開け 「家永先生ー! 菊池ー! 先生が目を覚ましたー!」  と叫んだ。すると  バタバタバタバタ……  足音が近づく。  それと女性の 「廊下を走らないでくださーい!」  と注意する声も聞こえた。 「あれ? 俺、いつの間にベッドで寝て……?」  何がなんだか分からない。 (……ここは一体?)  キョロキョロと辺りを見渡していたら、家永と菊池が飲み物抱えて部屋に駆け込んできた。 「平野……!」  家永が、ベッド脇に寄って心配そうに知己の顔をじぃっと見つめた。 「な、なんだよ、家永。大袈裟だな」 「せんせっ!」  門脇と菊池も、家永の横から体を滑り込ませて、またもやベッドに雪崩れ込む。 「あ? えー……と?」  戸惑う知己に、抱えていた飲み物をテレビ台の脇に置くと、菊池が 「もうびっくりしたんだぜー! 先生、1時間くらい目を覚まさなかったんだから」  と時計をちらりと見た。 「1時間……?」  知己が訊き返すと 「先生が全然起きないから、なんか空気が重くって……。少し気分転換に飲み物でも買いに行こうと門脇も誘ったんだけど、こいつ、責任感じて先生から離れたがらなかったんだ。仕方なく門脇おいて、俺と家永先生でそこの自販機まで買いに行ってた所だったんっす」  と菊池が答えた。 「これまでの気の抜けない3時間おきのデータチェック。それに今朝は早朝からその最終確認にも付き合わせてしまったから。疲れがたまってたんだろうな。門脇君はともかく、三十路の俺達にはハードスケジュールだったかもしれん」 「久々の遠泳で、思ったよりもバテてたのかもしれないな」 「とにかく……」 「「「目が覚めて、良かったー!」」」  と三人は、揃って言うのだった。 「あの、何……一体?」  と知己が戸惑っていると 「覚えてないのか?」  ベッド脇から食い入るように門脇が訊いてきた。 「平野……。まさか、ここはどこ? 私は誰? とか言わないよな?」  家永が尋ねると 「あはは、そんな漫画じゃあるまいし」 「じゃあ、言ってみろ」 「俺は平野知己。ここは病院」 「……合っている……」  一同が一様に、はあーっと安堵の息を長く吐いた。
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