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一通り知己の話を聞いた後、
「あー、そっか。それならもう、今日は解散するか?」
と家永は言った。
「嫌だ」
青い顔して、知己は首を横に振る。
「なんか、お前、わがままになってないか?」
「お前と会って話をする。聞いてもらえるだけでもいいんだ。お前と話をする時間さえなくなると、俺はガス抜きできずにこのまま病気になるかもしれない」
(あの坊ちゃんには言えない内容だもんな。こりゃ、相当、溜まっているな)
「知っているか? 教師のなりやすい病気1位はメンタルの病気なんだぞ」
いささか脅迫めいて聞こえるのは気のせいだろうか。
「分かった。分かった。だが、俺の方も朗報はないぞ」
「聞く。いいから、言ってみろ」
「覚えているか? うちの大学、春にミスコンするのを」
ミスコンと聞き、知己は嫌な予感しかしなかった。
「うちの学校、学祭が秋にあるんだが、ミスがしなくちゃならない学祭のイベントがあるので、春のうちにミスを選出するんだったよな」
「そういえば、そうだった」
慶秀大は、知己の出身校でもある。
かつての記憶を呼び覚まし、知己は大きく頷いた。
「御前崎美羽が、今年のミスだ。今後よほどの大番狂わせがない限り、あいつは4年間ミスに君臨し続けるタマだと思われる」
「……」
「結論から言うと、俺への風当たりは増し増しだ」
「が……がんばれ、家永」
知己は、たどたどしくも今思いつく精一杯の励ましの言葉を家永に投げかけた。
「門脇はというと、元気に俺の研究室に来ている。最近、授業中の門脇の寝言を聞いた学生が『ああ、先生。そんな、大胆な。こんなところで……』と言ってたそうだ。俺の針の筵は、今や剣山状態だ」
「……大変だな」
「お前の所の卒業生、なんとかならんか?」
「俺が言ってなんとかなる連中じゃない」
「分かっている」
「……」
そこで知己と家永は、深いため息を同時に吐いた。
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