慶秀大学海浜研究所 8

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 菊池の意地悪に気付かない門脇ではない。  だが、さすがに今回ばかりは迎撃を行わなかった。  ただ、一心に知己を心配そうに見つめている。  あまりにも熱心に見つめられるものだから、知己はその視線にやや気おくれするものの (えーっと、何だ、それ……?)  なんだか、ますます頭が痛くなる思いだった。 「その……俺が人工呼吸してなかったから、やばかったと思うんだ。……そこは恨むなよ」  門脇が、気まずそうに歯切れ悪く言うと 「いや、恨むだろ。全部、お前の所為じゃん」  と菊池は突っ込んだ。 (なんで、この二人は寄ると触るとケンカするんだ?)  知己は、ベッド脇の家永のさらに向こうに陣取る二人に向かって、とりあえずぺこりと頭を下げた。  「そんな、恨むなんて……。救ってくれてありがとう、門脇さん」 「ん?」 「門脇さん?」  菊池と門脇が戸惑う。  それどころか家永も不思議そうな顔をして知己を見つめた。 「なんだ? 平野。さっきから何かおかしいぞ」 「おかしくなんかない」  と知己は首を横に振った。 「あ。もしかして家永は実験の途中だったのに、わざわざ病院に来てくれたんじゃないか? すまないな」 「あ、ああ。でもメインの実験が済んでいるから、後は単発のものばっか。調整は利くから気にしなくていい」 「そっか。サンキュ」  お泊り実験に支障は出なさそうだと分かって、知己はホっと息をついた。 「やっぱり……なんか、変だ」  ぼそりと門脇が呟く。 「そうか? 今の話で、普通だと思ったが」  お泊り実験のことを把握しているので、家永は安心したらしいが、門脇は未だに変だと騒いだ。 「先生が家永先生にめちゃくちゃ懐いてんのは知ってるけど、それ以上になんか変だ」  犬か何かみたいに言われて、知己はムッと眉間にしわを寄せた。 「失礼だな」  と言うと、門脇は親指を立てて自分に向けて 「大体、先生を助けた王子さまは俺だろ?」  謎の主張を始めた。  さっきめちゃくちゃ責任を感じていた様子はどこへやら。 「懐くなら俺にしろ」 「はあ?」  突然の難解な言葉に、さらに知己の眉間の皺が深くなる。
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