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「何、それ?」
やや引き気味に菊池が尋ねると
「実は、さっき先生にキスした」
と門脇が爆弾発言を投下した。
「はあ?!」
その場に居た者全員が凍り付く。
「それで先生の目が覚めた。だから、俺が王子ポジションだろ?」
門脇は平然と言うが、知己は青ざめ、家永は呆れて立ち尽くし
「お前、俺達が飲み物買いに行ってたあの短時間にそんなことしてたんか?! 不謹慎だな。どんだけ欲望に忠実なんだ?!」
と菊池がまくし立てた。
「いや、俺の所為で溺れたわけだし、なんとかして早く目覚めてほしいなと思って。なんかしたら目が覚めないかなと」
心配で門脇が知己の傍を離れなられなかったのは本当なのだろうが
「それで、ずっと先生の顔見てたら、妙にムラムラしてきて」
「最後のムラムラはアウトぉ!」
たまらずに菊池が門脇の口を押えた。
どこまでも欲望に忠実な言葉に耐えられず、知己が
「う、……うわぁぁぁ!」
一瞬叫んだ後に、ぱあんっと一閃。菊池が押さえていたからというのもあるが、門脇は知己の平手打ちを避けられなかった。
紅葉の痕が門脇の左頬に現れた。
「え? あ……れ……?」
知己にひっぱたかれた頬を押さえて、門脇が目を丸くしていた。
(さっきは人工呼吸で礼さえ言ってたのに、なぜ、今、キスで大騒ぎして平手打ち?)
「……うぅっ……」
次は唸ったかと思ったら知己はがばりと頭まで掛布団かぶって、甲羅に手足ひっこめた亀のように丸くなっていた。
がたがたと震え、何か小言で呟く。
今度こそ
(絶対に変だ!)
と思って、三人がそっと知己に耳を寄せると
「マジか。嘘……。俺、男にキスされた……んか?」
布団の中からくぐもった哀しい声が漏れ聞こえた。
「?」
「何、言ってんだ? 先生。さっき人工呼吸でありがとって言ってたじゃないか」
「人工呼吸は人命救助だからいいんだー!」
知己が飛び起きた。
(寝たり起きたり、忙しいな)
家永がびっくりしていた。
海浜研究所近くの田舎で唯一の大きな病院に運び込まれ、一通り検査したがどこにも異常はなかった。ドクターは
「目を覚ましたら、帰ってもいいよ」
と言ったくらいだ。
これだけ元気いいのなら連れて帰ってもいいだろうと思っていたが、門脇は
「俺とのキスなんて、初めてでもないだろうに」
と知己の怒りの炎に油を注ぐような最悪な発言をした。
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